ほかげ

戦争に行けば人は狂う、しかし社会は狂わなかった多くの人たちでつくられる…

塚本晋也監督「ほかげ」です。DVDで見るような映画ではありませんが見逃していますのでやむを得ません。それにしても約40年間、自主制作スタイルを貫いて20作(ウィキペディア)つくり続けてきているわけですから本当にすごいことです。

ほかげ / 監督:塚本晋也

塚本晋也監督…

それだけに独りよがりになりやすいところですが、この映画は内容的には結構客観性をもって撮られています。ただ、やはり低予算ということもあるかとは思いますが、映画のつくりに、なんと言いますか深さがありません。

なんて偉そうなことを言っていますが塚本晋也監督の映画は2本してか見ていません。「KOTOKO」と「斬、」です。

ほとんど内容を記憶していませんので今読み返してみたところでは、人間の暴力性にこだわりがあるんだなということとその暴力を「暴力」としてしか表現できない浅さを感じたようです。

過去の監督作品のクレジットを見てみますと、すべて監督、脚本、撮影、編集が塚本晋也さんになっています。40年このスタイルでやってきて今更ということなんでしょうが、せめて撮影は技術的なこともありますので他の方に任せたほうがいいんじゃないかと思います。余計なことですが、この映画のカメラはうまくないです。率直なところでは脚本の台詞も編集もです。

本当に余計なことでした(ゴメン…)。

人物描写は観念的で現実感に乏しい…

戦後すぐの話です。80年前です。主要な人物は女(趣里)と戦争孤児(塚尾桜雅)と男(森山未來)の3人です。名前はありません。意図したことでしょう。

女(趣里)のシーンで始まり、それが続きますので女の映画なんだなあと見ていましたら、ちょうど半分くらいで男(森山未來)が軸となる展開となり、二部構成なのかなとみていきますと、最後は再び女のシーンに戻ります。結局、軸となっているのは一貫して登場する戦争孤児であり、女や男、そしてそれらが出会う大人たちは皆戦争によって傷ついた大人たちであり、そうした大人たちを見つめる未来ある子どもという視点の映画ということのようです。

こんな大人たちが生まれる社会をつくるんじゃないよと子どもたちに託している映画ということでしょう。

ただ、人物描写が観念的で現実感に乏しく見て感じる映画ではありません。人は戦争に行くと狂うんだよということを前提にして見ないとわからない映画ということです。想像力の問題と言われればそうなんですが、ふと思うことは、現実の社会は狂わなかった多くの人でつくられているわけで、それでも戦争はなくなりません。本当の恐ろしさはそこにあるんじゃないかと思います。これも余計なことでした。

女は居酒屋をやっています。しかし客も来ないでしょうし、酒や食材もなかなか手に入らないのでしょう、体を売ることで食い扶持を稼いでいます。なぜ頭っから女は体を売るものという設定から入るのか疑問ではあるのですが、とにかく酒を手に入れる代わりに口入れ屋に客を取らされているという設定のようです。

その居酒屋に盗みを働いて追われた戦争孤児が逃げ込んできます。また、復員兵が客としてやってきます。復員兵はいい奴そうでお金がなくなったけれども明日稼いで返すから今日も来ていいかと尋ね、そのまま居付きます。そしてしばし疑似家族状態が続きます。

あるとき、屋外で銃声(のような音?)がしたことに復員兵が怯え、突如、狂ったように女を襲い、孤児を外へ投げ出したりと暴れ出します。孤児が隠し持っていた拳銃で復員兵を追っ払います。

その後、女は孤児にここにいてくれる?とか、用心棒になってくれる?とか、お嫁さんにしてくれる?とか(んー…)言いながら疑似親子関係を楽しみます。

その間、夜中に孤児がうなされるシーンとか、女が孤児に盗みは絶対ダメと強く言うシーンとか、女が苦しそうであるシーンとか、居酒屋の奥の部屋に夫の遺影が飾ってあるシーンとかがあります。

そしてある日、孤児はある男に仕事を頼まれたから1週間出掛けると言い拳銃を持って出ていきます。

女には発疹が現れ始めています。

狂わなかった男の30年後は…

後半は孤児と男(森山未來)の旅になります。前半の暗い室内とは打って変わって屋外の農村シーンや山の中の川沿いのシーンになります。

その間、子どもが労働力として売られるシーン、男が夜うなされるシーン、戦争で狂ったがために幽閉されている男を男(森山未來)が癒やすシーンなどがあり、そして男の目的たる場所にたどり着きます。

男は戦時中に捕虜を殺せとか、略奪を命じた上官を呼び出し、亡くなった戦友の名前を言いながら、これは誰々の分です、これは誰々の分ですと3発の銃弾を上官に浴びせます。最後にこれは自分と銃剣で殺された捕虜たちの分ですと言いながら拳銃を突きつけますが、引き金を引くことはできず、さらに自分のこめかみに拳銃を向けますが、死ぬことはできず、上官に苦しめと言い残し、一発の弾丸を残したままの拳銃を孤児に返し、戦争が終わったと言います。

男の行為は正義なのかと、私は思います。男の30年後、40年後を見てみたいです。

エンディングは再び女の居酒屋です。孤児が戻りますと、女は近づかないで、私は病気なのと言い、拳銃は置いていきなさい、あなたはそんなものを持たないで生きていくの、しっかり生きていくのよと言います。

孤児は町へ出て闇市の店で勝手に手伝いをし始め、その店主に怒鳴られながらも止めようとはせず、その店主も情にほだされ孤児に食べ物を与え、またお金を渡します。孤児はそのお金で食べ物や衣服を買おうとします。

そのとき、遠くから銃声が一発、孤児は人混みの中に消えていきます。

もちろん孤児は女のために食べ物や衣服を買おうとしたということであり、銃声は女が拳銃の最後の一発で死を選んだということです。女は梅毒に冒されていたということだと思います。