話は面白いですし、宮沢りえさんも窪田正孝さんも他の俳優さんも皆うまいですし、各シーンよくこなれていてとてもよく出来ているのですが、だめなんですよね、こういう映画は…。
本気度が問われる
政治、特に利益誘導型の選挙を皮肉っている映画です。
それの何がだめなのか?
誇張されているにしても現実もこうだろうと思われることを笑ってすましても虚しいだけです。皮肉は言っちゃいけないところで皮肉らないと皮肉にならないです。皮肉らなくてはいけない相手に向かって言ってくださいということです。
今はもう誰でもSNSやブログで、政治家個人に対しても、行政に対しても、企業に対しても、何でも言えるわけですから、昔のように芝居や寄席で観客が拍手喝采するような時代ではありません。
今の時代、本当に必要なのは間違いのない事実です。この映画の中のシーンで言えば、言い逃れの出来ない贈収賄の現場映像です。もちろん、それを映画に求めているわけではなく、そういう価値観の話です。
とはいっても、映画は思ったよりも(ペコリ)よくできていました。
俳優の間合いがとてもいい
描かれているのは、ひとりの議員を神輿に担ぐ秘書たちや地方議員、後援会、地元企業といったある種政治互助会みたいな利益集団の話です。
衆議院議員川島昌平が病で倒れ、その娘有美(宮沢りえ)に白羽の矢が立ちます。有美は親の出資で始めたネイルサロンをやっていたのですが、父親の意向を受けて(と聞かされ)無理やり後継者となったようです。ただ、そうした無理矢理感はほとんど描かれておらず、冒頭有美が登場するシーンなどは意気揚々としており、やや傍若無人ぶりを発揮する感じのキャラではありました。
その有美と有美付きの秘書谷村(窪田正孝)の掛け合い、谷村たち秘書数人のアンサンブル、後援会の老人たちのトリオ芸人ぶり、そして不思議なリアルさを醸し出していた(笑)地方議員たちの怒鳴り漫才風あるいはパワハラぶり、そうした俳優たちの掛け合いの間合いがとてもいい映画です。
ネタバレあらすじ
映画の序盤、有美(宮沢りえ)は父親の後継者である自分の意志で物事が運ぶものと考えています。その前段はまったく描かれていませんが、仮に思い悩んだにしてもきっちりと心を決めて政治家の道を歩もうとしています。それゆえ、傍若無人に見えたり、失言もしたりします。
政治のプロたち(ゴロたち)にはそれが受け入れがたく、議員は神輿であって、それを担いでいる自分たちがあってこそだと考えていますし、それを受け入れない有美は許しがたい存在です。もちろんすべてコメディです。
これが序盤です。谷村たち秘書は、有美の起こすトラブルに辟易としながらも平気の平左(バシッ!)で処理していきます。怒鳴り込んでくる後援会や地方議員たちに頭を下げることなど何でもありません。自分たちがいての議員、神輿など誰でもいいのだといったふるまいです。
中盤になりますと、そうした周りの対応に有美が反旗を翻します。自殺すると言い出します。まじで後援会の老人たちと喧嘩します。秘書たちはさすがに後援会に引き上げられてはと、口では言っていますが、皆なぜか余裕のヨッチャンです(バシッ!)
選挙が始まります。有美の演説会は後援会の動員が得られず閑古鳥が鳴いています。それでも秘書たちは大丈夫、大丈夫と慌てる気配はありません。世論調査をみてもリードしています。
有美の父昌平の口利き疑惑が報道されます。有美はどういうこと? これはダメでしょう! とマジで秘書たちを問いただしますが、政治とはこういうものですとまともに応えようとしません。谷村が迷い始めます。
終盤です。谷村の迷いは2つのシーンで表現されています。ひとつは谷村たちがいつも飲んでいるコーヒーをボランティアさんが、何?!、このまずいコーヒー! と言い出します。こんなもんだといつの間にかおかしなことに気づかなくなっている谷村ということです。そしてもうひとつは、娘を連れて昌平(死んではいない)を見舞った谷村に、昌平が、おまえが娘にこうしようと思っていることを娘が望んでいなかったらどうする?(こんなようなことで詳細は忘れた)と言われたことです。
2つともかなり弱いんですが、とにかく終盤は、有美が周りの人間たちのあまりの酷さに、じゃあ落選すればいいのよと言い出し、谷村もそれに乗ることになります。
谷村は落選させるなんて簡単ですよと、昌平の口利き疑惑の贈収賄現場動画をネットに流します。しかし、有美や谷村には折り悪く北朝鮮がミサイルを発射し、せっかくリークしたスキャンダルが話題になりません。
現実であればそんなわけはないんですが、こういうところもコメディーにしちゃいたいんでしょう。
で、さらに谷村は、事務所中でミサイル発射を大喜びしている動画をネットに流します。しかし、これも北朝鮮がミサイル発射を中止したために、逆に中止されたことを喜ぶ動画と誤解されて落選を目指す谷村には裏目に出てしまいます。
そしてラスト。「決戦は日曜日」の投票日です。有美は見事に当選してしまいます。有美と谷村は議員としてめげずにやっていきましょうと言い合っています。
何をやっていこうとしているのかはわかりません。仮にまっとうな道を歩みましょうだとしてもこの谷村ではダメでしょう。
一歩間違えば冷笑系
細かいところでは結構面白い映画ですが、全体としてみれば、序盤、中盤、終盤の変わり目が中途半端であまり効果的じゃないです。喜劇でありながら気持ちの悪いもやもや感が残るのはそれが原因でしょう。
窪田正孝さんの人物像のせいですね。議員が落選したら自分は失業だと言いながら、簡単に有美の落選行動に乗ってしまうというのは現実的にもあり得ませんし、あり得ないからコメディーだとしたのであれば映画的にもダメですね。
俳優のうまさに頼りすぎているのかもしれません。窪田さんは何事にも動じない楽天思考(じゃないとやっていけない)の政治家の秘書をうまく演じていますし、もうひとりの主要な秘書濱口を演じている小市慢太郎さんの悪徳秘書ぶりもうまいです。宮沢りえさんのうまさはあえていうことでもないでしょう。そうした俳優たちのワンシーンワンシーンを見ていればそれで見られてしまうという錯覚に陥っているのかもしれません。
内容的には最初に書いたように、一歩間違えば冷笑系にもなってしまう映画です。