記憶が消える前に、罪を消せ。
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」「スポットライト 世紀のスクープ」のマイケル・キートンさん主演、監督、製作というクライムもの映画です。記憶を失っていく殺し屋という基本プロットが結構面白かったです。

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ネタバレあらすじ
この手の映画はあまり見ませんので、新鮮なプロットなのかとググってみましたら記憶喪失の殺し屋というのは結構あるようで、この映画のように記憶を失っていくというのはリーアム・ニーソンさんの「MEMORY メモリー」がヒットします。
Amazon の紹介文には「完璧な殺し屋として、裏社会でその名を馳せてきたアレックスが、引退を決意する。アルツハイマーを発症し、任務の詳細を覚えられなくなってしまったのだ。」とありますので設定はこの「殺し屋のプロット」と似ています。
ただ、その映画を見ていない上での話ですが、この「殺し屋のプロット(Knox Goes Away)」は映画のトーンがちょっと違うんじゃないかと思います。記憶を失うということはアイデンティティを失う、つまり自分を自分と認識できなくなるということですので怖いことであるとともに、消えていくといった悲哀感が漂います。それにこの映画のノックスが発症するのはクロイツフェルト・ヤコブ病というもので「発症後の平均余命は約1.2年(ウィキペディア)」だそうです。
それともうひとつ、この映画はどちらかといいますと親子ものです。
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ノックスの人物像
最初の数シーンでノックス(マイケル・キートン)の人物像と記憶を失いつつあるという現状を見せていきます。
ノックスと相棒のマンシーがダイナーで話をしています。設定はよくわかりませんが、ノックスが何万冊の本を持っているとか、誰かれの哲学本の話とか、人を憎み続けることができるかとか、ジョーク話の中で映画の伏線と思われるような話をしています。、そしてノックスが数日この町を離れると言い、その間にコーヒーを頼んだことを忘れたり、別れるときには自分の車がわからなくなっているところを見せています。
ノックスが MRI の診察を受けています。それが町を離れた理由です。その後医師からクロイツフェルト・ヤコブ病であり、治療法はなく、その進行は早く、数週間でほぼ記憶を失うだろうと診断されます。
ノックスの自宅、女性とベッドの中です。週一でやってくるポーランド人(わざわざそういう設定…)アニーは娼婦です。話の中で、今日が息子の誕生日であるとか、自分は湾岸戦争に従軍していたとか、逆にアニーの方からあなたは孤独に見えるなどと話しています。アニーは本好きでノックスから本を借りて読んでいるようです。ノックスの自宅には確かに何万冊もあるかという本棚があります。
そして、ノックスとマンシーの仕事(殺し…)の現場です。某所に侵入し、バスルームの男女を殺害します。頻繁にノックスの意識が途切れる様子が映像でも表現されています。そのとき人の気配が! ノックスは意識が途切れ途切れのまま拳銃を発射します。倒れているのはマンシーです。
ノックスは、すまない…と言い(それだけかい…)、即座に殺害現場を3人(ターゲット2人とマンシー…)の争いであるように偽装工作をしてその場を去ります。そして、このミスを殺しの仕事を手配するボス クレイン(アル・パチーノ)に電話で報告します。
ただ、この偽装工作は素人が見ても偽装になっていませんので多分警察の捜査シーンのための伏線的仕込みだと思います。
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ノックスの偽装工作
ということで、まず序盤ではノックスがインテリの殺し屋であり、すでに記憶を失いかけており、残された時間は数週間であることを見せています。
続いて、ノックスは冷静かつ沈着な人物ですので人生の後始末をしようとします。財産の分配です。現金に絵画に宝石があると言っています。裏稼業の人物(多分グループの一員…)に、疎遠になっている妻(元妻かどうかは不明…)と息子、そしてアニー(4年一緒に過ごしたと言っていた…)に分配する手はずを依頼します。ただし、3人めがアニーとわかるのは映画後半であり、ここでは相手にマンシーの家族かと聞かせて、マンシーには家族はいないと答えています。
で、ここからが映画の本題です。
突然息子のマイルズ(ジェームズ・マースデン)が訪ねてきます。手に怪我をし、衣服にも血がついています。マイルズは人を殺してしまった、助けてくれとパニック状態で懇願します。16歳の娘が SNS で知り合った男に妊娠させられ、その男を殺してしまったと言います。
ノックスは冷静です。マイルズが持っていた凶器のナイフを受け取り、衣服を着替えさせます。ここではわかりませんが、後の偽装工作に使うためです。そして、マイルズに家に帰り、何事もなかったように振る舞えと命じます。
その後、ノックスは殺害現場に向かいます。まず、警備員を気絶させ、防犯カメラ映像を編集してマイルズが写っている画像の時間を変更します。続いて部屋に入り、あれこれ偽装工作をします。ここではどう偽装しようとしているのか具体的にはわかりません。
続いてクレイン(アル・パチーノ)のもとに行き、すべてを話して息子を守るための偽装工作への協力を求めます。
さらにノックスはマイルズの家に侵入し、凶器のナイフを換気口に隠し、マイルズの血のついた衣服を収集用のゴミ箱に捨てます。
ここらあたりでノックスがどうやって息子を守ろうとしているのかはほぼわかってきます。自分が身代わりになるということです。
さて、その方法は? ということになります。
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警察の捜査
この映画はノックスの犯罪行為と同じくらいの重要度で警察の捜査を描いています。そこでノックスの偽装工作を明かしていくためです。
それに警察パートのシーンはちょっと意識されてつくられています。捜査を仕切る有能な刑事役イカリにアジア系の女性を当てています。スージー・ナカムラさんという、多分日系の方だと思います。さらに台詞もかなりジェンダーを意識したものになっています。イカリに母親のことを語らせたり(ラストに母のワンシーンあり…)、部下の男の刑事が性別もわからない犯人に「男」という言葉を使うことをイカリが皮肉を込めて咎めます。
アメリカ映画も変わってきているということですかね。まあちょっとばかり部下の男たちが無能すぎるようにも思いますが、ジェンダー平等への過渡期と考えればこれも悪いことではないでしょう。
捜査はまずノックスがしくじった3人の死体現場から始まります。ここで上に書いたようなキャラクター設定があり、イカリ(スージー・ナカムラ)刑事が3人が撃ち合ったのなら誰がシャワーを止めたのだと見事な推理で(笑)、もうひとりの犯人の存在を明らかにし、その後3人とも同じ拳銃で撃たれていることが判明し、死体がマンシーであることからノックスに容疑がかかります。ただ、証拠がありませんので任意同行で事情聴取するもののなにかが明らかになることはありません。
この事情聴取ではノックスが自分のフルネームが思い出せなく適当に答え、逆に警察側がなんの策略だと不審がったりすることに使われいます。
ノックスの症状については、警察のシーンと交互して描かれていくわけですが、記憶が飛んだり、鍵はあるけれどもどこのものか思い出せなかったり、クレインに何度もスマホのパスワードを外しておけと言われたりと病が徐々に深刻なものになっていることが描かれています。
警察の捜査はマイルズが殺したもうひとつの殺人に移ります。被害者の身元が判明し、その男のチャット記録(だったか…)からマイルズの娘が浮かび、ノックスが操作した防犯カメラ映像からマイルズが容疑者として任意同行を求められます。警察はその間にマイルズの家の捜査令状を取り家宅捜索し、ノックスが隠した凶器とゴミ箱に捨てた血のついた衣服を押収します。
そして、マイルズは逮捕されます。わけのわからないマイルズは混乱します。
ノックスは最後の偽装工作を行います。留置中のマイルズに面会し、お前は俺の脱税を密告した、そのために6年も刑務所暮らしを強いられたと一方的に告げるのです。しきりに否定するマイルズ、ノックスは何も言わずに出ていきます。
捜査は進み、鑑識からとんでもない報告が来ます。凶器にマイルズの指紋はあるものの粘着テープののりが検出されたり、衣服の血は一旦凍結後に解凍されたものだというのです。同時に防犯カメラ映像にも手が加えられていることが判明します。
これでノックスのトリックはわかりましたので、後は Knox Goes Away … です。
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ノックスの最後の後始末
どこであったかは忘れましたが、ノックスが元妻を訪ねるシーンがあります。ノックスは君とマイルズにお金を残すと言いに来たようです。しかし、元妻はそんなものはいらない、わたしが欲しかったのはあなたですと言います。ノックスはもう戻らないと言って去っていきます。元妻は、あなたを愛している、ちょっとだけ…と呟いています。
映画中頃に、週一のアニーが来るシーンがあります。ノックスが元妻と勘違いして(かどうかはっきりしない…)財産を残す話をしたり、現金化する予定でベッドの下に隠してある絵画をアニーが見たりするシーンがあります。
そして、映画後半、アニーが男二人と共にノックスの家に乗り込んできて銃を突きつけます。ノックスは殺し屋ですのでそんなことに驚きもせず、ちょっとした格闘後に二人を射殺します。そして、アニーに銃を向け、こんなことしなくても財産の3等分のひとつは4年間も一緒に過ごした君のものだったと言い、今にも引き金を引きそうなカットで終わっています。
最後です。ノックスはクレインに電話をし、すべて終わった、ここに3人の死体がある、通報してくれと言います。
クレインが通報し、刑事たちがノックスを訪ねたときにはノックスはすべての記憶を失っています。
イカリがマイルズを前にして、あなたの容疑は晴れた、あなたの父があなたに罪を着せようとした、それほどの恨みを持ったのはなぜだと思うかと尋ねます。マイルズは、わたしが父を脱税で告発したからだと答えます。
後日、イカリは留置所のノックスにマンシーを殺したのはあなたかと尋ねます。しかし答えは返ってきません。入れ違いにマイルズが入ってきます。そして二人はまるでマイルズが子供の頃のような話をしています。
ノックスの元妻に小切手が届きます。
アニーにはノックスの蔵書が届きます。
どこまでのいい奴ノックスです。施設の窓際に一人立ち、外を眺めるノックスの姿で映画は終わります。
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感想:親子もの映画でした
という、クライムサスペンスっぽい親子ものの映画でした。
映画のつくりはいわゆるアメリカ映画界のプロが書いたシナリオという感じがします。すべての辻褄が合うように、しかし、あいつはこういうやつだったみたいにひとりの台詞やワンシーンで説明してしまうようなことはせず、あちこちに散りばめて物語を構成しています。
犯罪のトリックがちょっと雑な感じがしたり、警察が無能過ぎじゃないと思うところもありますが、ノックスがマイルズの罪をかぶるという大枠はわかっても詳細は読めませんので最後まで楽しむことが出来ます。
できればノックスが記憶を失ったり戻ったりするところをなにか工夫をこらして描いてほしいなあと思うこととインテリであるがゆえの苦しみをもっと入れたほうがいいのにと思います。
ところでアル・パチーノさん、85歳ですか! いるだけで映画のレベルが一段上がります(笑)。