くれなずめ

舞台劇のノリで映画を撮ってみたら…

3年前の映画「君が君で君だ」のハチャメチャぶりが気に入って記憶に残っている松居大悟監督です。この「くれなずめ」までの間に2本ありますがあまり食指が動かず、やっと今作は期待できそうということで…。

くれなずめ

くれなずめ / 監督:松居大悟

あまり映画的じゃない舞台劇

期待していた内容ではありませんでした。

いやいや、面白くなかったという意味ではなく、内容が、俳優の熱量、間合いという意味も含めてですが、その瞬間瞬間の俳優たちの息が合ってさらに面白みが増すという内容ですので、あまり映画的ではなかったということです。

やはりもとは「ゴジゲン」の舞台劇ですね。

舞台であれば、その日その日の出来は違うにしても俳優たちの息さえ合えば盛り上がりそうです。

それに関して感じたのは、映画の最初の結婚式場のシーンはほとんどカットを割らずにワンカットがかなり長くなっていましたが、披露宴後の屋外のシーンはかなり細かくカットを割ってありました。

式場のシーンはなんだか皆ぎこちなく、テンポも出ていないです。それが屋外のシーンからはだんだん面白くなってきます。

あるいは6人(5人)が5年ぶりに会ったという設定ですのでその演出ということも考えられなくもありませんが、もしそうだとしますとあの間合いの悪さをファーストシーンすることはしないでしょう。やはり(うまくいっていませんが)舞台劇的な俳優の掛け合いを見せたかったのでしょう。

映画は俳優だけではなく編集(モンタージュ)で見せるものだということです。

舞台と映画の違いを感じた映画ではありました。

映画的テーマはゴーストもの

映画には「ゴースト/ニューヨークの幻」以降、死んだものが幽霊となって現れるという物語がたくさんつくられており、それが愛する人であれば恋愛ものということになりますが、この映画は6人のうちのひとりが亡くなっており、明確に幽霊というわけではないにしても、5人それぞれが5年間断ち切れなかった思いを5人で語らい合いつつ断ち切ろうとしたり、でもやっぱり断ち切れないといった友情ゴーストものです。

公式サイトでも明かされていますが、吉尾(成田凌)は5年前に亡くなっています。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

「優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)と役者の明石(若葉竜也)、既婚者となったソース(浜野謙太)、会社員で後輩気質の大成(藤原季節)、唯一地元に残ってネジ工場で働くネジ(目次立樹)」の6人とミキエ(前田敦子)の映画です。

ミキエは高校時代に吉尾とともに清掃委員をやっていて吉尾が密かに思いを寄せている女性で、公式サイトには役名も出ていないという扱いなんですが、前田敦子さんが6人を圧倒するような存在感を放っています。こういう役をやらせたら右に出るものはいないですね(笑)。

最初から最後まで下の6人の映画です。

この6人が結婚式場で友人の結婚式の余興の打ち合わせをするシーンから始まります。

先に書きましたようにこの入りはあまりよろしくなく、何を見せたかったのかがはっきりしません。

そして、5年ぶりに全員揃ったということでカラオケへ行きます。吉尾がふと「ずっと気になっていたんだけど、もしかしてオレってさあ…オレって死んで…」ともらします。

一気に結婚式当日の披露宴終了後に飛びます。披露宴での余興シーンはありません。赤フンダンスは見事にスベったようです。二次会までの3時間が5人の会話による妄想(幻想)と回想で描かれます。

ただ、特にこれといった話はありません(笑)。とにかくあの頃は楽しかったなあという話をしながら次第に吉尾がすでに死んでいることが明確にされていきます。96分の映画ですが、これでよく持ったなあという感じがします。そのあたりが松居監督のうまいところかも知れません。

回想でわかることは、

  • 高校時代、吉尾(成田)は明石(若葉)に誘われて文化祭で赤フンダンスをやりそのまま帰宅部6人のひとりとなる
  • 吉尾は同じ清掃委員のミキエに恋心を抱いている
  • 卒業後、(大学などは語られない)吉尾は仙台で働いている
  • 欽一(高良)は東京で劇団を主宰し、明石は役者をやっている

ということくらいです。

そして5年前、欽一たちの舞台を見るために6人が揃います。吉尾は打ち上げに誘われますが明日仕事だからと新幹線で帰るといい、皆で「またな」と別れます。明石が「乗り遅れたら電話しろよ」と声を掛けます。

そして、実際吉尾は乗り遅れて電話をしますが明石は打ち上げの喧騒で気づきません。吉尾は夜行バスで帰ります。

で、◯年前、何年前だったか記憶できていませんが、2年前というスーパーがどこかにありましたので2年前だったかも知れません。5人に吉尾からメールが入ります。しかし、それを送っているのは父親(だったような)で吉尾が亡くなったという知らせなのです。

ここの描写はうまいですね。涙がこぼれました。

ソース(浜野)は妻(となる人?)とスーパーで買物をしています。メールが入り、あ、吉尾だと見ます。しかし文面は吉尾の死亡を知らせるものです。楽しく買物をしていた空気が一変します。ネジ(目次)に電話をし、見たかと尋ねます。ネジは仕事の帰りなのか車の中でひとり鎮痛な面持ちです。ソースはスーパーから出るまで抑えていたのでしょう、スーパーから出るやいなや泣き崩れます。そしてその時、欽一と明石は舞台の打ち上げなんでしょう、他の劇団の演劇人なのか評論家なのか、痛烈な言葉を投げつけられています。明石が下を向きながら同じくメールを読みます。怒りを抑えて耐えていた明石が突然立ち上がって「コメディーの何が悪いんだ!静かな演劇のどこがエライんだ!(台詞は適当)」とまくしたてます。松居監督の本音なのかな(笑)。

葬式に出た後の5人の画がワンシーンあったと思います。

ミキエとの妄想(幻想)シーンもありました。二次会へ向かう途中、皆に焚きつけられるように吉尾がミキエに告白します。一歩、また一歩と近づくミキエ、(ハグするのかと思いましたら)スマートフォンを開いて、カワイイでしょうと子どもの写真を見せていました。

そしてエンディング、松居監督の特徴でしょう、かなりくどくなります(笑)。終わりかなと思っても、まだ、2、3シーンあります。「君が君で君だ」もそうでした。

吉尾が昇天するシーンや菜の花畑のシーンがあり、そして暮れなずむ夕暮れに向かって、5人それぞれに「くれなずめ」と心の中でつぶやきます(かな?)。

エンドロールでは、6人がウルフルズ「それが答えだ!」で赤フンダンスを踊ります。結婚式の披露宴会場の設定になっていました。

俳優の得意不得意があらわれる?

こういうノリがポイントになる映画では俳優の得意不得意があらわれるように思います。

明石の若葉竜也さんとソースの浜野謙太さんはよくあっていました。吉尾は飄々としたキャラですので成田さんははまりますが、高良健吾さんは劇団の主宰者という松居監督自身が反映された役どころではないかと想像しますが、あまり目立ったところがなかったです。こういうノリの演技には合わないのかも知れませんね。

ということで、松居監督のうまさもあり面白く見られる部分もありますが、やはり映画としては期待する「君が君で君だ」のような映画ではありませんでした。

君が君で君だ

君が君で君だ

  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: Prime Video