原作とは違い、男たちの青春ものになってしまった(涙)
柴崎友香さんの『きょうのできごと、十年後』を読み、おもしろかったので、それがデビュー作の続編であることも知らなかったそのデビュー作『きょうのできごと』を読み、そのデビュー作が行定勲監督によって映画化されていることを知り、DVDで見てみました。
女の見た男、男の見たい女
始まってしばらく、というよりかなりなんですが(涙)、伊藤歩さん演じるけいとと田中麗奈さん演じる真紀に無茶苦茶違和感(ちょっと〇〇っぽすぎる)があり、さらに原作にはないビルの隙間に挟まって動けない男のギャク系のシーンや海岸に漂着したクジラのエピソードシーンが挿入されるあたりは、なんじゃ、こりゃ?と思い、何度も DVD を止めようと思ったくらいです。
思い出しました。原作を読んだ後にこの予告編を見て「んー、見ないほうがよさそうです(涙)」と書いていました。なんで借りたんでしょう?
と、思ったんですが、40分ほど過ぎたあたり、中沢がけいとと真紀を連れて帰り、正道たち男4人と中沢たち3人のシーンが切り離されたあたりからはやっと会話の間合いもよくなって見られるものになったという映画です。
こういうことかもしれません。原作は女の話であり、男にしても、女の見た男が描かれているのに、映画は男が見たい女が描かれているように思います。けいとと真紀のキャラはあまりに原作と違いますのでともかく、正道が自転車で転び怪我をした後の女からの電話で話すシーンは結構いいシーンなんですが、それにしても電話の女の印象が原作とはずいぶん違い粘っこいです。原作はもっとさらっとしています。
カワチくんがちよと動物園でデートするシーンもちよが単調すぎます。ちよはもうダメかもしれないと思いつつ、これ言っちゃ余計傷口が広がるかもしれないと思いつつ、でもひとこと出てしまうという内面の迷いが感じられません。ただ、原作にはないシーン、宴会後にかわちくんが駆けつけるとちよがアパート前で待っているというシーンを入れていますので映画としては自然とも言えます。
正道たち男4人のシーンはうまくできていますので、2003年(製作年)の時点では行定勲監督も男性の描き方はうまくても、女性の描き方がうまくなかったということかもしれません。
漂着するクジラ
ビルに挟まれる男のギャク系シーンは鬱陶しい(ペコリ)と思いますが、クジラのエピソードは冒頭の入り方はともかく、映画のまとめとしては結果としてよかったようにも思います。
あのクジラ、どこから思いついたんでしょうね。当時、そういうニュースでもあったのでしょうか。それに、あの女子高生もどういう存在なんでしょう、自殺でもしようとしたんでしょうか。
なんともよくわからないクジラのエピソードなんですが、結局、最後に中沢たちも正道たちもクジラがいるべき場所で合流するもそのクジラはいないわけですから、ある種青春の本質をついているようにも思います。
連作がうまく織り込まれている
原作は5篇の連作なんですが、うまく1本の映画に織り込まれています。
中沢とけいとの車の中の会話から二人が通っていた高校を深夜に見に行く話、かわちとちよの動物園での話、正道が山田と出会い蟹を食べに行く話、ああ、ひとつ高校時代の中沢とけいと豊野の話が入っていないですね。
原作の記憶もやや薄れ始めていますのではっきりしませんが、ビルに挟まった男が豊野かもしれません。もしそうだとしても、原作の豊野からイメージされる男ではありません。
20年前のあの頃は…
20年前の映画です。小説ですと古さを感じませんが、映像にすると俳優の年齢ということもあるのか、随分時代を感じます。
それに20年前の男たちはこの映画のけいとや真紀のような存在として女性を見ていたんでしょうか。行定勲監督、現在53歳、当時は30代前半です。