ゴッドファーザーに囚われ続けるマフィアもの
いわゆるマフィアものの映画でかなり渋くつくられていますので、そこそこ見ごたえはあります。ただ、人生の終わりを感じ始めた(のだと思う)大物マフィアが自分自身の生涯を語る現在とそのマフィアの過去が交錯して描かれますので、わかりにくい部分も多いですし集中しづらいところがある映画です。
それにしても邦題を「ギャング・オブ・アメリカ」とするのはいいにしても、英文で「GANG OF AMERICA」ってのはどうなんでしょう?
マイヤー・ランスキー
マイヤー・ランスキー、原題「Lansky」そのものであるこの人のことを知って見たほうがいい映画です。
ウィキペディアからその生涯を簡単にひろってみますと、1902年生まれ、1911年に一家でニューヨークに移住、10代のいわゆるストリートギャングのような時代を経て、1920年からの禁酒法時代に密輸ビジネスでのし上がり、1930年代にはマーダー・インク(Murder Incorporated)、直訳すれば殺人会社設立に関わっています。
このマーダー・インク、映画の中でも殺し屋集団のように描かれていましたが、ウィキペディアを読みますと、正確には、
「縄張り争いは各々のビジネスを損なう」という発想の元、殺人行為を規律化するため、プロの殺し屋から構成される暗殺専門の執行機関を作った。暗殺はビジネスの必要に限定され、恋愛や復讐など個人的な理由は禁じられた。反逆者の粛清や政府密告者の口封じが中心だった。
(ウィキペディア)
ということのようです。ああ、やっぱり殺し屋集団か(笑)。
その後、1933年に禁酒法が廃止されてからは違法賭博に主軸を移し、ニューヨーク外の「ケンタッキー、フロリダ、ニューオリンズ、西海岸、ラスベガス」へ進出し、この映画では後半に描かれているキューバでの賭博リゾートを独占しています。
第二次大戦中には、ランスキー自身がユダヤ人ということからも何らかの資金援助や反ナチスの行動をとっているようです。映画ではナチスシンパの集会に乗り込んで参加者を虐殺していました。
戦後には、キューバの軍人バティスタの賭博ビジネスアドバイザーとして軍事クーデターに協力しています。ただ、1959年にはカストロやゲバラによるキューバ革命が起きていますので、莫大な資産を残したままフロリダに逃げているようです。
1960年代もあれこれ稼ぐと同時にFBIに目をつけられており、1970年に脱税容疑で捜査の手が伸びるやイスラエルに逃亡しています。1972年にイスラエルでの帰化申請が却下され、アメリカに強制送還されますがその後保釈され、「1976年に病気と老齢を理由に告訴は取り下げられ、FBIはランスキーの身辺調査を中止した(ウィキペディア)」ということです。
その後は、「マイアミの閑静な隠れ家で質素に暮らし、1983年1月15日、肺癌で死去した」そうです。
ドラマの核は3億ドルのゆくえ?
映画のつくりは、老年のランスキー(ハーヴェイ・カイテル)に作家のストーン(サム・ワーシントン)が伝記を書くためのインタビューをすることでランスキーの過去が映像としても描かれ、同時にランスキーを捜査しているFBIがストーンに接近して、ランスキーの隠し財産3億ドルのありかを探し出そうとする2つの軸で進みます。
ランスキーの生涯
ランスキーの生涯はほぼ上に書いたように描かれています。人物像は多くのマフィア映画のパターンかと思います。常に冷静で決断も早く、それは敵を倒すときも一撃で殺すということです。
自分のやっていることはビジネスだとうそぶき、フォードと同じだと言います。フォードは車を売っているのではない、車に乗る楽しみを売っているのだ(といった意味だった)、そして自分は人間の快楽(違うかもしれない)を売っているのだと言います。
これを現代の日本に移しますと、IRをあたかもまともな事業のようにいう維新みたいなものなんですが、ただ、現実的には先進国においては基幹産業が第三次産業に移っていることは間違いのないことです。話がそれました(笑)。
このランスキーの表(裏の世界だけど)の生涯は、この業界であれば割とありきたりに描かれていますが、もうひとつ個人的なことが重要な軸として描かれています。
ランスキーは26歳の頃にアンナという女性と結婚し3人の子どもをもうけています。長男には障害があったそうで、そのことでアンナと言い争うシーンが複数回あります。映画では描かれていませんが、現実ではそのアンナとは離婚しています。映画でも、出会いから愛し合うワンシーン以外は諍いの場面が多く、しかし、ランスキーは一貫して子どもを愛しているという描き方がされており、ラストシーンは施設に入り横たわる長男(すでに50歳前後でしょう)を抱きしめる場面で終わっています。
ストーンの物語
もちろんランスキーを取材する作家ストーンは実在の人物ではありません。そのストーンにランスキーの家族関係を反映させる描き方をしています。お金の問題のようですが、ストーンは妻から愛想をつかされている状態です。おそらく離婚は最近なんでしょう、しかし未だ未練を断ち切れず、頻繁に電話をするシーンがあり、ランスキー同様、子どもへの愛情が強調されています。
フロリダでの取材です。ストーンはモーテルに泊まり、ランスキーとはダイナーや屋外で何日にもわたって取材しています。
モーテルにひとりの女性がいます。ストーンと親しくなり関係を持ちます。その女性の元カレ(かな?)といざこざがあり、女性はその男がドラッグの密売云々で調べられていると言います。この女性がFBIのおとりなのか、単に女性が自分自身の犯罪でFBIに付け込まれたのかはわかりませんが、ストーンの原稿のランスキーの過去の告白をFBIにもらしていまいます。
FBIがストーンに接近し、ランスキーから3億ドルのありかを聞き出せ、さもなくばストーンが取材した情報をわれわれFBIに漏らしているとランスキーにバラすぞと取引を持ちかけます。
うやむやな結末
というかなり緊迫した結末が予想され、ストーンはランスキーから2、3度重要情報を聞き出し、それによりFBIも動くのですが、聞き出した重要人物が交通事故で死亡したり、貸し金庫を開けてみればランスキーの人をくったようなメッセージが入っていたりするということで、現実と同じように、ある日突然FBIの捜査官に上司から捜査中止命令が下されます。
そして、すでに書きましたように、ランスキーが施設に入っている長男を抱きしめその横に横たわるシーンで終わっています。
ゴッドファーザーから抜けられないマフィアもの
マフィアものというのはアメリカ映画の王道ジャンルかと思いますが、「ゴッドファーザー」以降はその描き方から脱することがかなり難しくなっているのではないかと思います。
すでに書きましたようにこのランスキーも、沈着冷静、時に冷酷、しかし家族への愛情は強く、表と裏の顔の両面を持つという描き方がされています。
この映画の制作者たちに「ゴッドファーザー」への意識があるのかどうかはわかりませんが、老齢マフィアの回想録というスタイルは切り口を変えようとの試みのようにもみえます。
仮にそうだとすれば、その試み、ストーンにFBIを絡ませて緊迫感を出そうとはしてみたものの中途半端に終わってしまったのではないかと思います。