山逢いのホテルで

山逢いのホテルで、Let me go 、Laissez-moi、ほっといて…

ジャンヌ・バリバールさん主演の映画です。「バルバラ セーヌの黒いバラ」や「ボレロ 永遠の旋律」を見ていますが、とても印象に残る演技をする俳優さんです。

この映画のメインヴィジュアルや「山間」を「山逢い」としたタイトルからは、いわゆる女性のアバンチュール映画を思わせますがそういう映画ではありません。

山逢いのホテルで / 監督:マキシム・ラッパズ

クローディーヌのセックスは自身の存在確認のため…

クローディーヌ(ジャンヌ・バリバール)はアルプスの山間の村で障害(脳性麻痺かと思う…)のある息子バティストと暮らしています。ドレスの仕立てを生活の糧としていますが、知り合いのつて頼みのようで安定したものではなさそうです。実際、映画の中でもこのドレスが最後ねという客ともう会えなくなるのがさみしいと惜しむシーンがあります。

クローディーヌは毎週火曜日に白いドレスを着てグランド・ディクサンス・ダムにあるホテルへ出かけ、宿泊客の男性とその日限りのセックスをします。

映画はその理由を何とは語っていません。もちろん売春行為ではありませんし、息抜きや気晴らしといった感じでもなく、自分の存在確認のようにも見えます。バリバールさんの演技は堂々としていますし、会話の延長線上のもののように描かれています。

クローディーヌの方から積極的に話しかけ、まず、どこから来たのか、そこはどんなところかを尋ねます。そして、すぐに部屋に行こうと誘い、セックスをし、ありがとうと言い残して去っていきます。

そして、帰り道、登山鉄道かロープウェイの駅で手紙を投函して家に帰ります。

家に帰りますとポストから手紙(1週間前の手紙?…)を取り出し、そしてその手紙をバティスタに読み聞かせます。その手紙にはホテルで相手の男から聞いたその町の様子が書かれており、そして最後には「パパより」とあります。

そんな変わらぬ日々がずっと続いているのでしょう。

実在するグランド・ディクサンス・ダムとホテル…

ところで、あのダムはもちろんですがホテルも実在のもので、下のストリートビューはクローディーヌがハイヒールでカツカツと歩いていたダムの天端です。ぐるりと回しますとホテルも見えます。Hôtel – Restaurant du Barrage という山岳ホテルで、ホテルの画像を見ますと部屋への出入りのシーンはホテルそのままを使っているようです。

ホテルのウェブサイトに動画がありました。映画の中でクローディーヌがミヒャエルとともにダム内に入っていくシーンがありますが、ダム内の通路の画は下の動画にもありますのでツアーがあるようです。

スタートしますと音楽が流れますのでご注意を。

※スマートフォンの場合は2度押しが必要です

ラストシーン、クローディーヌは自らを呪う…

映画はその内容に反して淡々と進みます。

クローディーヌのそうした日常が2シークエンスほどあり、そしてミヒャエル(トーマス・サーバッハー)と出会います。ミヒャエルの方から話しかけてきたと記憶しています。ミヒャエルはクローディーヌがダムの天端をカツカツと歩いていくシーンの背景で写真を撮っていた人物です。

ミヒャエルは水力発電の技師でハンブルクから来ていると言います。クローディーヌはルーティンに従い(みたいな感じ…)町のことを聞き、セックスをし、そして帰っていきます。

映画的には特別運命的といったつくりはされておらず、翌週もミヒャエルがいたためにセックスをします。あえて言えば、クローディーヌの様子に少し変化がある程度です。

ミヒャエルの方は愛を語り始めます。クローディーヌと一緒にいたいがために出張を伸ばしたようなことを言っていました。クローディーヌも変わり始めます。あなたと1日いっしょに過ごすのが私の願いと言い、少し歩きましょうと言います。ここでダム内の画があります。一度限りの関係ではなくなっているからでしょう。

ミヒャエルがアルゼンチンへ行かなくてはいけなくなった、一緒に来てくれと言います。

クローディーヌが迷い始めます。実はバティストの介護を頼んでいた女性とちょっとしたトラブルがあり、家を空けるときにはバティストを施設へ預けるようになっています。バティストも施設に馴染んでいます。つまり、クローディーヌにバティストの介護から解放されるという想念が生まれているということです。

クローディーヌはアルゼンチン行きを決断します。そして、その日、バスの停留所です。ミヒャエルが行こうと促しバスに乗り込みます。クローディーヌのクローズアップが続きます。

言葉はありません。クローディーヌはミヒャエルに行ってと目で答えます。

いっときはこの地を去ろうとして詰め込んだトランクを引きずりながら、クローディーヌは腹の底から自らを呪うような唸り声をあげます。

ウォーと叫んでいたように感じました。

ジャンヌ・バリバールさんの映画でした…

監督はマキシム・ラッパズさん、1986年生まれですから38歳くらいの方です。ファッションデザイナーでもある方のようです。この映画は昨年2023年のカンヌ国際映画祭ACID部門のオープニング作品に選出されています。

それにしてもすごい渋い映画を撮ったものだと思います。クローディーヌを何歳の設定にしているのかはわかりませんが、ジャンヌ・バリバールさんの実年齢は現在56歳です。映画での印象はもう少し高齢に見えます。日本的感覚で言いますと高齢者の恋愛という映画に見えてしまいますが、多分、そういう意図はないでしょう。

自分ではない他者(子どもも含め…)のために生きることを強いられる女性が自分のために生きることを決断することの難しさを描いているのだと思います。

ジャンヌ・バリバールさん、やはりこの映画でもとても印象に残る演技ではありました。