幕が下りたら会いましょう

松井玲奈さんを撮ることを目的にした映画のようだ…

いい映画を見落としていないかと DVD のレンタルリストを見ていて、そう言えば「よだかの片想い」では松井玲奈さんの印象がとても良かったなあと思い出し見てみました。製作年はともに2021年となっていますが公開はこちらのほうが先です。

幕が下りたら会いましょう / 監督:前田聖来

松井玲奈さんを撮ろうとしたのかも…

やはり松井玲奈さんはうまいですね。それにこの映画自体が松井玲奈さんを撮ることを目的にしているのではないかという気配さえあります。

東京からほど近い地方都市で劇団を主宰している麻奈美(松井玲奈)と妹の尚(筧美和子)の関係が軸になっています。ただ、妹の方は映画が始まって早々に亡くなりますので、二人の関係というよりも麻奈美が生前の尚との関係にどう整理をつけていくかといったほうが正解かと思います。

という映画かと思いますが、その軸がなかなかはっきりしてきません。麻奈美は最後まで心の内を明かしませんし、尚は死んでいる上にフラッシュバックもありませんので具体的なことはまったくわかりません。過去に麻奈美が(劇団が?…)受賞した演劇賞の脚本は実は尚の書いたものであったという、かなり重大なことだと思うのですが、そのこと自体はとても軽い扱いになっています。麻奈美のシーンに後悔であるとか、自責であるとかを見せるシーンが全くありません。

ですので、最後までいったい何が問題なのかがはっきりしない映画です。

やはり、松井玲奈さんフィーチャー映画ですかね。冒頭の美容室のシーンなんて、麻奈美と尚が登場する唯一のシーンなのに麻奈美だけを撮り続けていますもんね。

「葡萄畑のアンナ・カレーニナ」はちょっと…

そして映画はかなり無理筋かと思いますが、尚の死をきっかけにして受賞作である「葡萄畑のアンナ・カレーニナ」再演を持ちかけるプロデューサー(的な人物…)が現れて、それが現実のものとなります。しかし、麻奈美は一度はそれに乗ったものの何かが違うと思い、あらためて尚との関係を描いた新作を書き下ろして上演することを決断します。

映画終盤、その舞台の稽古シーンになり、そこに麻奈美の心情が反映されているということかと思います。ただ、その舞台で演じられることは映画冒頭のシーンを繰り返している以上のものはなく、麻奈美が何を整理して何を始めようとしているのかがよく見えてこないという結果になっています。

多分、再起という単純な意味合いでしょう。

麻奈美が劇団の主演俳優である早苗(日高七海)に新しいことを始めようと思うと言い、その後、尚の最後の姿が防犯カメラ映像に写っていた姿として描かれます。おそらく尚は、死の直前、工場の奥の明かりを舞台の明かりに見立てて、舞台で踊る自分を感じていたということかと思います。

ということであれば、麻奈美がその尚の思いをついで東京進出ということになるのかもしれません。

まあ、こう考えることもできますが、如何せん、何もかもがはっきりしておらず、確かに人間の内面など説明不可能ではあるのですが、それを俳優に頼ってわかるでしょでは映画にならないとは思います。

舞台劇のようなシナリオ…

脚本は大野大輔さんと監督でもある前田聖来さんの連名になっています。どちらか、それこそ劇団をやっている方でしょうか。非常に細かい切り返しの台詞とかが多いですし、始まって20分くらいの劇団の飲み会のシーンなんてうまいもんですし、最後まで劇団にこだわっています。

これ、いる? っていう台詞もとても多いです。葬儀の場に弁当屋さんが弁当を持ってきて麻奈美がサインをする場面、麻奈美がバッグの中のペンを探していますと弁当屋さんがこれと言ってペンを差し出します。麻奈美は大丈夫ですと言ってバッグからペンを出してサインします。このシーンで麻奈美の何を見せようとしたんでしょうね(笑)?

といったシーンがとても多いです。そういうことではなく、もっと麻奈美の内面を突っ込んで描いていかないと誰もがみえる部分をさらりと流してこれでわかるでしょと言っているだけになってしまいます。

松井玲奈さんの俳優としての力を確信した映画ではあります。