モーションキャプチャによるフィギュア・アニメーションの世界
これは事前にマーク・ホーガンキャンプさんのことをよく調べてから見たほうがよさそうです。
なぜかと言いますと、この映画の前段となるホーガンキャンプさんの身に起きた事件についてはほとんど描かれませんし、映画の内容もホーガンキャンプさんを描くことよりモーションキャプチャを使ってフィギュアを動かすことに力が注がれているからです。
公式サイトにもありますが、ホーガンキャンプさんは、2000年4月8日、38歳のときにニューヨーク郊外のキングストンのバーで5人の男たちの暴行にあい、一命はとりとめたものの脳に損傷を受け、過去の結婚のこと、海軍時代のこと、家族のことなど、ほとんどの記憶をなくし、さらに重いPTSDに悩まれることになります。
暴行にあったわけは、彼がトランスヴェスタイト(クロスドレッサー)、つまり性自認とは異なる異性のものを身に着ける異性装と言われるもので、彼の場合は、映画にも出てきますが、女性用のパンプスやブーツを履くことを好み、家には200足くらい持っていたとのことです。
そのことをバーで飲んでいるときにひとりの男に話したらしく、その後バーを出たところで後ろから襲われたということです。ホーガンキャンプさんがアルコール依存であったと書かれているものもあります。映画でもお酒のことに触れている台詞がありましたが記憶できていません。
その後、9日間昏睡状態にあり、治療には43日間要したようです。
ホーガンキャンプさんのことについてはこちらのサイトに詳しいです。
なぜこの映画がそうした事件のことについては描いていないのかは、多分、2010年に「マーウェンコル」というドキュメンタリーが公開されており、その映画があることが前提になっているのでしょう。
最初に書きましたようにこの映画は、フィギュアを使ったアニメーションの世界「マーウェン」と実写を融合させてつくられており、マーク・ホーガンキャンプ(スティーヴ・カレル)がマーウェンの世界ではホーギー⼤尉となり、そこでナチスと戦う女性たち5人やナチスの将校も実写の人物のフィギュアとして登場します。
マーウェンの世界がメインの映画とはいえ、実写のマークにもドラマはあります。
ひとつが隣に引っ越してきたニコル(レスリー・マン)への恋愛感情です。映画ですからそのように描かれているのですが、ニコルはマークに好意を持っているようにみえます。マークはマーウェンの世界にニコルを登場させます。
マーウェンの世界と実写が連動して描かれていき、たとえば、実写のニコルが嫌がっているのに絡んでくる男友達が登場するとその男のフィギュアがナチスの将校としてマーウェンに現れ、ニコルを襲うというような感じです。
結局、マークはニコルの気持ちを好意と勘違いしプロポーズしますが、ニコルはごめんなさいするということで終わります。マークがさほど傷つくようには描かれていません。
オチとしては、それまで「マーウェン」であった世界にニコルのコルをつけて「マーウェンコル」になるということになっています。
ドラマはもうひとつあります。
加害者である5人の男たちに対する量刑を言い渡す裁判が控えており、できるだけ重い量刑にするためにはマークの出廷が重要だと言われています。しかし、PTSDのため、彼らと同席しただけでパニック症状が起きてしまいます。
実際、一回目の公判ではパニックとなりその場から逃げ出してしまいます。それを乗り越える過程がマーウェンからマーウェンコルへ変わるアニメーションの世界と連動して描かれていきます。
アニメーションの世界のフィギュアは、GIジョーとバービーです。こうしたものの好き嫌いは人それぞれですが、私はあまり好みではありません(ペコリ)。
Marwencol のオフィシャルサイトや画像検索で見る限り、ホーガンキャンプさんの世界が映画で表現されているかどうかもかなり微妙です。
率直なところ、ジェフ・マルムバーグ監督の「Marwencol」を見たほうがよさそうです。