大西礼芳さんじゃなければどうなっていたことやら…
映画.com の紹介文に「生と死の関係を深く温かく…」なんてコピーがありましたのでスルーしそうになった(なぜ?…)のですが「嵐電」と「夜明け…」の文字が目に入りポチッとした映画です。

大西礼芳さん、「嵐電」で見ているのに…
なんですが、劇場に入り時間があったものですから再度読み直してみましたら、「嵐電」の監督ではなくプロデューサー西田宣善さんの監督作であり、「夜明け…」も夜明け違いで勝手に思い込んだ「夜明けのすべて」ではありませんでした(マジです(笑)…)。
さらに公式サイトも見たものですから、よけいに心配になったんですが、すみませんでした(笑)、思いの外おもしろかったです。
大西礼芳さんです。
この俳優さんじゃなかったらどうなっていたんだろうというくらい、この俳優さん、すごいですね。
なんて読むのかもわからないのにこの名前記憶にあるなあとこのサイト内を検索してみましたら、なんのことはない「嵐電」でした。
それにその映画でも大西礼芳さんをむちゃくちゃ褒めているではありませんか! それなのに名前を見ても思い出せませんでした(涙)。「あやか」と読むようです。
大西礼芳さんの話から離れられない…
東京在住の優希(大西礼芳)は漫画家です。ただあまり売れていないようで今も出版社から不採用の連絡が来たところです。そんな優希に京都で一人暮らしの父親(伊藤洋三郎)が入院したと知らせが入り実家に戻ります。母親はすでに亡くなっており他に兄弟姉妹はいません。
父親は一命はとりとめたものの脊髄損傷で半身不随となり、デイケア施設「ハレルヤ」に通うことになります。
という設定で、しばらく父親の付き添いとしてハレルヤに通ううちに介護スタッフの洋子(中島ひろ子)やケアマネージャーの隼人(カトウシンスケ)と親しくなり、それとともに自分自身も父親の違った面を見ることで自ら遠ざけてきた関係が徐々に変わり、結局、京都に戻ってくることを決断するという物語です。
公式サイトを見ますと、そもそもはハレルヤのモデルとなっている実在のデイケア施設「ナイスデイ」の取り組みを映画の軸にすることだったようですが、結果としてそうはならずに大西礼芳さんの映画になっています。
こういうのを存在感と言うんでしょうか、そこに優希という人物がいるという感じがするんです。優希として大西礼芳さんがそこにいるという言い方のほうがいいかもしれません。
これはもう持って生まれたもので訓練や経験ではなかなか手に入らないものです。
その点ではシナリオもこの大西礼芳さんをうまく活かしているところもあり、たとえば家で漫画を書いているだけのシーンであるとか、施設で入居者やスタッフが活動しているその奥にちょこんと座ってその様子を見ているだけのシーンとか、かなり大西礼芳さんの演技に頼っている感じがします。
洋子や隼人との会話シーンも相手の押しの強い演技をうまく利用して自分のシーンにしています。中島ひろ子さんもカトウシンスケさんもどちらかといいますと濃いい演技をしていますので、あれをそのまま受けていたらかなり引いてしまうシーンになっていたと/思います。
とにかくうまいです。
なんだか大西礼芳さんのためのレビューになってしまいました(笑)。
つげ義春、白土三平、ガロ、西田幾多郎って…
デイケア施設「ハレルヤ」はハイデガーの哲学を取り入れて運営されているとしています。映画で描かれるのは「人はみな死ぬ」ということと、入居者のライフストーリーを「ハレルヤ通信」という文書で共有してコミュニケーションの潤滑油にするくらいですので具体的にどういうものかはわかりません。
この映画が原案としている伊藤芳宏氏の著書『生の希望 死の輝き 人間の在り方をひも解く』にはもう少し深いことが書かれているのだと思います。
ただ、この「ハレルヤ」の描写にはあまり現実感がありません。ドラマで現実感のある介護を描くのは難しいですね。
それに映画ですのでどうこう言うことではありませんが、あの施設であの入居者であのスタッフの人数では経営は無理のような気がします。
この映画では介護職が大変であることとか、障害者を見る社会の目について言葉でメッセージを発していますが、たとえば若手の二人の介護職員に単に「そんな給料もらっていない」と言わせて置き去りにするのではなく、ましてや洋子と対立させるような立ち位置に置くのではなく、いや、もし対立させるのであれば洋子に逃げさせるのではなく正面から相対させなければ嘘ですし、どちらにしても介護、あるいは介助の描き方がわざとらしくて引きます。
ところで優希と隼人の会話につげ義春、白土三平、ガロ、西田幾多郎が出てきていましたがどういう人物設定なんですかね(笑)。
と思い、脚本の梶原阿貴さんをググりましたら1973年生まれで、監督の西田宣善さんは1963年生まれの方でした。それにしても今の30代の会話にありなんですかね。
とにかく、あらためて大西礼芳さんをそう認識できた映画ということで見てよかったです。
「夜明けまでバス停で」を見てみましょう。