ナイトコール

ダルデンヌ兄弟監督「Jeunes meres, Young Mothers, ヤング・マザーズ」を早く公開してね…

ベルギーのミヒール・ブランシャール監督の長編デビュー作、「ベルギーのアカデミー賞と称されるマグリット賞10部門をはじめ、数々の賞に輝くクライムアクションスリラーの傑作が日本に上陸!」という映画です。

ナイトコール / 監督:ミヒール・ブランシャール

スポンサーリンク

ネタバレあらすじ

確かにクライム絡みではありますし、アクションシーンがほとんどですし、スリラー感はそれなりにあります。

でも、なぜか集中できない映画です。

なぜでしょう。私個人の好みの問題ということもあるのかもしれませんが、今思い返して思いつくのは、映画全体のリズムと流れがあまりよくないことと、映画の展開に説得力といいますか、有無を言わせぬ映画の運びみたいなものが絶対的に欠けているからじゃないかと思います。言い方を変えますと、次にやってくるシーンの想像がついてしまうということです。

たとえば、そもそものトラブルの発端、カギをなくしたから開けてほしいと言う人物がいて、本人確認を求めても身分証は部屋の中だと言うわけですからそれは嘘に決まっていますし、カギを開けた後にその人物が大きな袋を持って出てきて支払いのお金を引き出してくると言って消えちゃうわけですから逃げたに決まっていますし、身分証は部屋の机の上に置いてあるって、一般的にはそんなことを信じるやつはいませんわね(笑)。

ほとんどの展開がこんな感じです。これがホラーなら、ダメダメ、そっち行っちゃダメ! みたいな感じで楽しめるかもしれませんが、この映画ではその後に起きることも想像の範囲内ですので、キャー! とか言って(私は言いませんけど(笑)…)スッキリというわけにもいきません。

スポンサーリンク

本人確認は重要です…

マディ(ジョナサン・フェルトレ)は年中無休24時間営業のカギ110番をやっています。カギをなくしたと電話が入り現場に向かいますとクレール(ナターシャ・クリエフ)と名乗る女性が待っています。お金も身分証も部屋の中だと言います。やむを得ず開けますと、クレールは部屋に入り大きな袋を持って出てきて、お金を引き出してくる、身分証は机の上に置いてあると言って出ていってしまいます。

マディは部屋に入りますが身分証は見つかりません。住人の男が帰ってきます。格闘になり、マディが仕事道具のドライバーで男を刺します。男は死にます。

その後、男の仲間がやってきてマディは捕まります。アジトに連れて行かれ、リーダー格と思しきヤニック(ロマン・デュリス)に暴力的に問い詰められます。女はヤニックの組織のお金を盗んでいったということです。マディがことの経緯を正直に話しますと信じられたようでお金を取り戻すために協力しろと言われます。

ところで、この集団はどういう組織なんでしょう。マディが殺した男の部屋にはナチスのハーケンクロイツの旗がありました。それにこの映画には BLM(ブラック・ライヴズ・マター)のデモが街中で行われているという背景がありますので、その反対勢力のネオナチ集団かと思って見ていました。でも、映画としてはまったく関係ありませんでした。単なるギャング集団という設定なんでしょうか。それに盗まれたお金も何だったのか最後まで明らかになりません。

スポンサーリンク

スマホは重要です…

マディはヤニックの部下テオ(ジョナ・ブロケ)とレミーに連れられクレールを探すことになります。売春宿(表現がいいかどうか不明…)でレミーがトラブルを起こしマディはその間に逃げます。そして、実はテオがクレールと組んで裏切ってお金を盗んだことを知ります。

マディとテオの追走劇となります。

マディはトラブルの間にテオのスマホを手に入れており、クレールからの電話にショートメールで答えてクラブに呼び出します。あれこれあって、マディとクレールは二人きりになり、クレールはテオが兄であり、どん底の人生から抜け出させたいと言っています。

このあたりのマディがよくわからないんですよね。クレールに何らかの思いを持っている風でもあり、またマディが誰かに家を離れろだったか、ブリュッセルを離れろだったかと電話をするシーンがあるんです。その後関係のありそうなシーンはありませんので勘違いかもしれません。

とにかくこれも奇妙なんですが、マディとクレール二人のところにテオがやってくるのですが、マディはクレールをどう説得したのか、自分は隠れて、クレールとテオのやり取りをテオのスマホで録画します。クレールはテオと6時(だったか…)に北駅で待ち合わせる約束をして去っていきます。

あれこれあり、再びマディとテオの追走劇になります。マディは BLM デモに巻き込まれ、デモ参加者と一緒に逮捕され車に乗せられます。そして隣を見ますとテオも逮捕されています。護送車がギャングの車に追突されます。

再びギャングのアジトです。マディは裏切り者はテオだと話し、テオとクレールの会話の録画を見せます。テオは顔にガムテープをぐるぐる巻きにされ窒息死します。ヤニックたちはクレールを追い北駅に向かいます。

マディは解放されます。車の中で考え込むマディ、決断したマディは車を爆走させ北駅に向かいます。パトカーに追跡され、映画は突如カーアクションになります。最後はマディの車が派手に吹っ飛んでひっくり返っていました。死んだかなと思いましたが、それじゃ映画も終われませんので、マディは再び這いずりだして駅に向かって走り出します。追う警官たち、クレールを見つけたマディは、くれーる! と名前(クレールじゃなかったように思うけど…)を叫びます。マディは警官に撃たれます。

クレールは列車に乗りアムステルダムに旅立っていきます。マディは救急車の中で意識を取り戻しています。

スポンサーリンク

感想、考察:アクションものは吹っ切らないと…

原題は「La nuit se traîne」で「長い夜」といった意味のようであり、ある一夜の出来事を描いているということになります。

そのフランス語タイトルのニュアンスはわかりませんが、仮に「長い夜」のような日本語のニュアンスと考えれば、あるいは映画が主題と考えていることは、表立ったところのクライムアクションスリラーというよりも、マディやテオやクレールたちがしきりに言う「どん底から這い上がるために」ということにあるのかもしれません。

映画の背景に BLM を持ってきているのもそのためかもしれないですし、主人公たるマディを黒人系にしているのもその思いからかもしれません。

がしかし、仮にそうしたある種政治的な思いがあるのだとしても、映画はそうはならずに、かえってどっちつかずの中途半端なものになっています。そうした複雑化がストーリーテリングとして多くの点に置いて破綻しているということだと思います。

マディとクレールの関係の曖昧さ、ヤニックの黒幕のように見えるグレッグ(コンビニの店主?…)という人物の不可解さ、曖昧さ、そして、そもそもこのクライムアクションが BLM にうまく溶け込んでいないことが大きな問題です。

アクションものは映画技術のセンスがないと難しいということです。