人間失格 太宰治と3人の女たち

(DVD)ビジュアルだけではドラマは生まれない

ついつい蜷川実花ワールド! と言いたくなってしまいますが、ちょっと変わってきている感じがします。

というより、俳優、特に宮沢りえさんと二階堂ふみさんによるものかも知れません。集中させられるシーンがいくつかあります。

人間失格 太宰治と3人の女たち

人間失格 太宰治と3人の女たち / 監督:蜷川実花

「さくらん」と「ヘルタースケルター」しか見ていないので…、と書き始めて他に何を撮っているんだろうと見てみましたら、あら、この映画が4作目で、ということはほとんど見ているじゃないですか(笑)。

ただ、すべてDVDですので、劇場とは随分印象が違うとは思いますが、やはり蜷川実花監督と言いますとその映像の色彩感と、それに花(的なもの)ですよね。この映画でもその色彩感はもちろんのこと、ふんだんに「花」が使われています。

で、ふと思ったのは、やはり父親(蜷川幸雄)の演出の影響を受けている感じがします。まあ、雪を降らしたり、紙吹雪を使ったり、椿の花を降らせたりという単純な連想からなんですけど(笑)。

タイトルに「人間失格」とありますが、直接的にその著作を原作としているわけではなく、太宰本人の晩年、亡くなるまでの1年くらいを描いています。あらためて年表を見てますと、かなり史実にもとづいているようです。

1947年あたりからの物語です。ウィキペディアには、その年の2月に太田静子(映画では沢尻エリカ)と再会とありますのでこのあたりからが映画になっています。3月に山崎富栄(映画では二階堂ふみ)と出会っています。当時太宰には妻の津島美知子(映画では宮沢りえ)との間に二人の子どもがおり、同じ3月に三人目が生まれています。太田静子との間にも11月に女児が生まれています。作家の太田治子さんです。

そして翌年の1948年の5月に「斜陽」を脱稿、6月13日に山崎富栄と玉川上水で入水心中、38歳でした。

こういう実在した作家、ましてや人気作家を描くのは難しいですよね。読者それぞれにイメージがある上に、本人は自己破滅型ですし、実際に心中しているわけですから、どういう人物像にするかが映画の良し悪しの分かれ目かと思います。

という意味では、おおそう来るかといった太宰治像が浮かび上がってくる映画ではありません。

太宰をやっているのは小栗旬さんですが、太宰治というよりも小栗旬です。現実感がありすぎます。影がないです。女性を口説くにしても、甘えるにしても、苦悩するにしても、騒ぐにしても怒鳴るにしても、その行為の裏が感じられません。

それは俳優だけの問題ではなく、演出、特に映像処理や音楽が人物の裏をすっ飛ばしてしまうように働いています。台詞も現代のドラマのようです。

そのように作っているのかも知れませんし、もともと突っ込んだ人物描写を得意とする監督ではありませんので見るべきところはそこではないのでしょうが、それでもせっかく「太宰治と3人の女たち」という副題までついているわけですから、何か人間関係の妙のようなものが見たいとは思います。

3人の女との関係も深みがなく淡白です。

太宰は静子(沢尻エリカ)に何を求めて何を得られたんでしょう? 太宰は静子の日記が欲しくて、静子は太宰の子どもが欲しく近づいたみたいな感じですし、伊豆での情事は音楽に乗ってテンポよく進められ、まるでコミックのようです。

結果としては『斜陽』が生み出されます。

富栄の二階堂ふみさんはこういう映画にはあわないですね。持ち前の粘っこい間合い(批判ではない)と眼力でその瞬間ふっと集中させられますが後が続きません。とにかくあわないです。

美知子の宮沢りえさんは蜷川実花ワールドを破ろうとしていますし、結果として半分くらいは成功しています。俳優としての存在感が監督の演出をも変えるということでしょう。とは言っても、この美知子がいいというわけではありません。夫の不実にじっと耐え、それを子どもへの愛で誤魔化すというステレオタイプな女になっています。もちろん俳優のせいではなく、シナリオと演出のせいでしょう。

『ヴィロンの妻』のモデルと語られています。

そして、太宰は自伝とも遺書とも言われる『人間失格』を残して富栄と入水心中します。3人の女と3つの作品ということなのでしょう。

ラスト近くのクライマックス、太宰が雪の中で倒れ血を吐き、そして『人間失格』を書き上げ、蝶が舞い、原稿が舞い上がり、書斎の壁やら障子が飛んでいくところは、おお、蜷川(幸雄)演出だ! と感じ入りました。

いずれにしても、映画として冒険がありません。ビジュアルだけでは突き抜けた映画にはなりません。基本、映画は物語(ドラマがあるないということではなく)であり、それを作るのは人間(俳優)です。

それに、1947年と言えば敗戦の2年後なんですが、その気配はまったくなく現代のドラマを大正ロマン風のセットでやっているような感じでした。 

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