解凍された鯉とザ・ピーナッツ「恋のバカンス」?
「73歳、年金暮らし。それはあまりにも突然の余命宣告・・・。自分の<お葬式計画>に奮闘するエレーナの笑って泣けるやさしさに包まれる物語!!(公式サイト)」といったいわゆる終活ものというよりも母と息子の再生物語のような映画です。
英題は「Thawed Carp」で「解凍された鯉」という意味ですし、原題(Карп отмороженный)も同じ意味のようです。
映画の中でもその鯉が決定的な役割を果たします。
エレーナは村人からもらった(押し付けられた?)鯉の処理に困り冷凍しておくのですが、ある夜、その鯉が生きかえって元気に飛び跳ねるさまを目撃し大切に飼うことにします。
エレーナの息子オレクは都会(モスクワかな?)へ出ています。それは、この村には老人と酔っ払いしかないというエレーナの望みでもあり、余命宣告された今となってもオレクに迷惑をかけまいと自ら死亡証明書を取り棺桶も買いその瞬間の準備をします。
しかしその日はなかなかやって来ず、やむを得ず隣のおばちゃんに手助けを頼みますがうまくいかず、そのおばちゃんはエレーナに内緒でオレクに「お母ちゃんが死にそう」とメールします。
慌てて駆けつけたオレクは横たわるエレーナをみて涙を流しますが、ただ寝ているだけのエレーナに驚き、そのはずみで車のキーを落とし鯉に飲み込まれてしまいます。
鯉をさばいてキーを取り出そうとするオレク、やめてと遮るエレーナ、獣医(ここはさかなクンでしょ)にみせるも鯉を捌くか新車を買うかの選択だと言われ、その間、オレクは村の元カノに出会うなどあれこれあり、夜中、何を思ったのか、車のキーを飲み込んだままの鯉を池に戻してしまいます。
という、物語は母子もの、つくりはコメディーという映画です。
補足すれば、オレクはそもそも都会の暮らしに嫌気が差し、村での生活に郷愁を感じているようです。都会での仕事のシーン、聴衆の前で何やらプレゼンテーションをしているワンシーンなんですが、あれは何なんでしょう、投資か何かの勧誘のような印象でうんざりしている様子ではありました。
また、オレクが都会での生活を捨てる、つまりキーごと鯉を池に戻すと決めた直接のきっかけは母親とともに収まる自分の幼い頃の写真を見たことです。
かなり甘いきっかけではあります。
鯉を池に戻したオレクは池に飛び込むのですが、それも子供の頃への郷愁の表現だと思います。ただし、池の深さは大人になったオレクの下半身程度しかありません。
家に戻ったオレクはベッドで横になるエレーナの傍らに静かにうずくまるのです。
エンディングに流れるのはザ・ピーナッツの「恋のバカンス」ロシア・バージョンです。
オリジナル版ですが入れておきました(笑)。
у Моря, У СИНЕГО МОРЯ! – история японской песни в исполнении дуэта The Peanuts 1963 г
なお、コメディーという点では、(私には)笑いのツボもリズムもジョークそのものもすべて間があいませんでした(笑)。これは映画がどうこうよりも価値観(生活感)の違いなんだろうと思います。
笑いの点だけではなく、全体としてどことなく異質な感じのする不思議なリズムの映画ではありました。