ザ・レセプショニスト

マッサージパーラーの受付嬢は何の夢を見たか?

何、このやる気(売る気)のない邦題!? と逆に興味を持った映画です。え? じゃあ成功してるじゃない(笑)。

「The Receptionist」

引用した画像の真ん中の女性がその「受付」の仕事をしているということで、何の店かと言いますと、マッサージパーラー、その実、性風俗店ということです。

ザ・レセプショニスト

ザ・レセプショニスト / 監督:ジェニー・ルー

場所はロンドン、女性たちはアジア系で、真ん中は台湾のティナ、右側も台湾のササ、この俳優さんはチェン・シャンチーさん、ツァイ・ミンリャン監督の「西瓜」とか「黒い眼のオペラ」に出ているかなり有名な俳優さんです。左側はマレーシアのメイ、そしてもうひとり後に働くようになる多分台湾のアンナがいます。オーナーもアジア人のリリーです。

監督のジェニー・ルーさんも台湾出身で、イギリスで映画に関わるいろいろな仕事をしている(IMDbによる)らしく、この映画が初の長編、監督としては他に短編が一本クレジットされています。

この映画は、監督の友人がヒースロー空港で自殺し、後にその女性がセックスワーカーとして働いていたことを知ったことが契機となっているとのことです。この映画の中ではアンナが飛び降り自殺します。

かなりきっちり作られた映画です。人物がしっかり描かれていますし、物語の展開もそつなくうまくまとめられています。

特徴的なのはその映像です。室内のシーンはどのシーンもとても暗いです。何があるのか何をしているのかよくわからないカットもあります。多くのシーンでは、ドレープ状のカーテンがひかれた窓からの逆光が意識的に強調されています。

おそらく外の世界との対比が意図されているのであり、女性たちが薄暗い狭い世界でうごめいてる状態を見せようとしているのだと思います。

カメラワークも当然ながらハンディになりよく動きますし、部屋の全体がわかるような引いた画はありません。濃密な空間が印象付けられています。

ただ、淫靡な感じはあまりしません。そうした意図を持って撮られているのかなと思うようなシーンもありますので、これは意図したことではないかも知れませんが、もしそうだとしますと、ティナの人物像と女性たちのキャラのバランスがいいことに起因しているのだと思います。

ティナは出版関係の仕事を探しているのですがなかなか見つかりません。同居しているボーイフレンドも仕事がなく、とにかく日銭を稼ぐためにマッサージパーラーの受付をやることにします。

このティナの仕事への割り切り方がとてもあっさりしています。実際にこうしたケースの場合、同性がからだを売って稼いだお金から自分の賃金が出ていることへの複雑な思いがあるのでは思いますが、そうした人物とは描いていません。思い悩むシーンがあるわけではなく、仕事も結構手を抜いているようでもあり、オーナーの目を盗んで面接に行ったりしています。

そうしたティナに対して三人の女性たちも特別な感情を持つことはなく、むしろ、それぞれのキャラで対等な立ち位置で対しています。

ササは10歳くらいの男の子がいる女性で、哀しみをたたえながらも悟ったようなところがあります。ティナに厳しく当たることもありますが、言葉には表さない優しさを示します。

映画の冒頭と最後のシーンとして、このササが、背丈ほども生い茂る草むらを出口を探して動き回る幻想シーンを入れていますので、ティナよりもこのササが映画の思いを一番体現している人物かもしれません。

実際、映画のラスト、ティナは自分がいるべきところとして台湾へ帰りますが、ササは抜け出られずに終わっています。

メイはまだ若く、陽気なキャラで、あまり自分の現状に思い悩むような人物ではありません。歌ったり踊ったりと場の空気とは関係なくマイペースです。

そして、後半にやってくるアンナは不幸を背負った人物です。実家への仕送り(だったかな?)のためにもお金が必要で、この仕事も初めてらしく常に悲しげで、生きることを苦痛と感じている人物です。

オーナーのリリーは、こういう仕事ですから当然といえば当然のワンマンな人物で若い男に貢いでいます。ただ、それ以上のことはなく、皆持ちつ持たれつの関係でもあり、それなりに家庭的な雰囲気もあります。

こうしたところから、映像の暗さからイメージされる陰湿、淫靡さは打ち消され、むしろ乾いた雰囲気を持つ映画になっています。

いろいろ事件も起きます。

客の暴力があったり、リリーの男がティナに迫りササがそれを助けたり、ティナの面接先の男が客としてやってきたり、ティナのボーイフレンドがティナの仕事に気づき、ティナをアパートから追い出したり、ササのお金が盗まれたり、リリーの借金取りが幾度も押しかけたり、そしてついに、その借金取りが強硬手段に出て暴力的に侵入しお金を盗んでいってしまいます。

当然大騒ぎとなり、その家の貸主の知るところとなり、追い出されることになります。

それがきっかけになったのか、アンナは常々抱えていた心の痛みと望郷の念が飽和状態に達し、ひとり空港へさまよい出るも自分の行き先のないことを知り飛び降りて自殺してしまいます。

このアンナの件はほとんど突っ込んでは描かれていません。そのことが一概に良くなかったとも言えないのですが、友人の自殺が映画の契機となっているのであれば、もう少し深く描いても良かったのかも知れません。

で、マッサージパーラーは騒ぎで閉じることとなり、ティナは台湾へ帰ります。

ラストは、ティナとササの手紙のやり取りで説明され、リリーとササが逮捕されたこと、ティナが台湾で(何でしたっけ?)なにかのプロジェクトに協力してみたいな、それなりに充実しているような言葉と映像でまとめられていたと思います。

その前であったか後であったか、上に書きましたササが草むらで出口を探し回る悲しげな顔のカットがあります。

ということで、ティナの希望とササの絶望が同時に提示されたエンディングということになるのでしょう。

この映画、公式サイトなどでは「移民」ということが割と全面に押し出されて解説されており、もちろんその視点がないとは言いませんが、それを強く感じる映画ではありません。労働環境において、移民であればより厳しい立場に置かれるということはありますが、この映画ではティナのボーイフレンドも同じく職が得られない状態に置かれています。

高学歴よりも低学歴、男性よりも女性、先住民よりも移民といった具合に、しわ寄せは川下に向かうということで、特に移民の女性にはこうした性風俗業への罠が待ち受けているということではあります。

ツァイ・ミンリャンDVD-BOX  「楽日」「迷子」「西瓜」

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