1991年ソ連崩壊の年、キューバは宇宙とつながっていた!
キューバ映画ってだけでも興味をそそられます。キューバが舞台であったり、キューバ絡みの映画はそこそこ見ることはありますが、キューバ映画そのものってなかなか思い浮かびません。
監督は1961年生まれのキューバ人エルネスト・ダラナス・セラーノさんで、この映画はアメリカ、キューバ、スペイン合作となっています。前作の「ビヘイビア」が2016年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映されていますが、劇場公開はされされていないようです。
『ビヘイビア』予告編 ◆SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015 長編部門◆
「ビヘイビア」の予告編がありました。シリアスタッチのようで見てみたいですね。
で、こちらの「セルジオ&セルゲイ」はコメディと紹介されており、確かにところどころにそうしたテイストは感じられますが、というよりもむしろ、監督自身が経験してきた30年近く前のソ連崩壊時の混乱を風刺的に描きつつ懐かしんでいるといった映画です。実際、監督もメッセージを寄せて「風刺作品でありながらも、語り口はノスタルジック」と語っています。
時代設定はソビエト連邦が崩壊した1991年、その影響を受けて経済危機に陥ったキューバに暮らす人々の生活が描かれていきます。そして、同じくその煽りをくって宇宙ステーションミールに取り残されたロシアの宇宙飛行士が絡んできます。
そのためもあってか、(完全に真上からの)俯瞰の映像が多く、初っ端も宇宙から地球にぐわぁーんと寄る手法でハバナの街並み、そしてセルジオの住まいへとズームインしていました。
キューバの大学で教鞭をとるセルジオ(トマス・カオ)は、モスクワに留学しマルクス主義哲学を修めてきたエリートなんですが、日々の生活に困るくらいの窮状にあえいでいます。セルジオは幼い娘(10歳くらい?)と母親と暮らしており、妻は亡くなっています。
名前はわかりませんが隣に親しく行き来している若い男が住んでおり、冒頭、屋上をとらえた俯瞰のシーンでバタバタバタとヘリの音が近づいてきた際に、やばい、隠せ!と慌てて何かを布で覆っており、何だろう?とその時はわからなかったのですが、あれは、キューバを脱出する(多分フロリダに向かう)ための小舟だったんですね。
後にその船を売るシーンがありますので、隣の男は船を作って売ることで生活しているということでしょう。ただ、あの船で大丈夫?というような代物です。
つまり、そうした時代の物語ということです。
セルジオの大学のシーンでも、セルジオが自分の経歴、モスクワに留学したことやマルクス主義(者であるかどうかは?)に対して自嘲的に語ったりしていましたし、ひとりの女子学生との間で卒業論文について彫刻がどうのこうのとぶつかっていました。
この女子学生とのやり取りは、描ききれていないのか、字幕が悪いのか、(私が悪いのか(笑))、最後までよくわからず、ラスト近くのシーン、その女子学生が教師や生徒の前で彫刻と抱き合っているパフォーマンスなのかなんなのか、何だったんでしょう?
あるいは、セルジオと女子学生の恋愛関係を描こうとしたのかも知れませんし、またこの映画、93分という短めになっていますのでカットされているのかも知れません。
セルジオはアマチュア無線の趣味を持っており、アメリカにも無線仲間のピーター(ロン・パールマン)がいます。ピーターはセルジオの窮状を知っており、電話式の無線機を送ってくれたり、手助けすることはないかと気にかけています。
セルジオが宇宙からの通信を受信します。ミールに取り残された宇宙飛行士セルゲイ(ヘクター・ノア)です。このセルゲイは、セルゲイ・クリカレフさんという実在の人物がモデルとのことで、実際この人物は、ソ連時代にミールに飛び、地球に帰還したときには、その国はロシアになっていたということで「最後のソビエト連邦国民」と呼ばれている人ということです。ただ、映画ではミールにひとりで滞在していますが、ウィキペディアによりますと、実際は二人だったようです。
で、セルジオがモスクワに留学していたことやセルゲイがスペインをを話せることで親交が深まっていきます。
当然(映画の中の)キューバ政府としては、こうした状況下、国民が外部と接触することは嫌うわけですから、セルジオの無線を傍受して監視しようとします。この役割として情報機関のような組織の二人が登場するのですが、上司はともかく、実働部隊の部下が、どうとらえていいのか、妙に中途半端な立ち位置で登場し、意外にも、ラストでは映画的に結構重要な扱いをされています。
そうこうしているうちにミールが隕石の衝突で損傷を受けます。セルゲイがセルジオに助けを求めます。助けといっても地球から何かできるわけではなく、何だかよくわからないままにセルゲイの危機は脱せられます(笑)。正直、あまりうまく描かれていません。
セルジオは、セルゲイを帰還させようと、NASAにコネのあるピーターの協力を求めます。ピーターはそれに応え、これまた何をしたのかはっきりしないまま、NASAの協力によってみたいな感じで映画は進みますが、映像的には特にNASAは関係なく、ロシアの宇宙船でセルゲイは地球に帰還します。
そもそもこの映画、「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!」のしょうもない(笑)邦題の影響もあって、ついついセルジオとセルゲイの交流が本筋と思ってしまいますが、映画の大半はセルジオの家族の生活を描くことに費やされており、監督本人が経験した当時のキューバの実情を皮肉を込めて描くことが映画の軸なんだろうと思います。
実際、セルジオは教師の給料では食べていけなく、公正さからなのか、プライドなのかはわかりませんが、当初拒否していた不正行為の密造酒造りを始め、母親が葉巻づくり(違法なのかな?)を始めることも認めるようになります。
ただ、映画自体がシリアス系ではありませんので、セルジオも、始めてみれば率先して密造酒造りを改良して一夜にして年収分を稼げるようにしていました。
ということで、結構面白い映画なんですが、そもそもが監督のノスタルジックな思いが前面に出ており、楽しめるにしても、映画的インパクトは弱く、もうひとつ何かビシッというものがあってもいいように思います。
なかなか情報もやって来ない今のキューバ、どうなっているんでしょう?