来る

映画笑いが止まらなくて、怖いぞー…

この映画を楽しむコツはただ何も考えず時間に流されてぼんやり見ていることです。何がどうなっているの?なんて考えて見ていると疲れます。映像的にも、音楽(音響)的にもどっと疲れます。

以下、いきなりネタバレしています。

「来る」映画(ネタバレ)笑いが止まらなくて、怖いぞー…

公式サイト / 監督:中島哲也

「来る」のは、大人たちに捨てられたり、いじめられたり殴られたり、挙句に殺されたりした子供たちの怨念です。

ですから、大人たちは皆殺されます。外にはイクメンパパを演じ、その実子供や妻のことなど見向きもしない空っぽの田原秀樹(妻夫木聡)、そんな夫であるが故とはいえ子供に当たり散らし、他の男との情事に逃げる田原香奈(黒木華)、その相手の男、子供など邪魔なだけだとうそぶく津田大吾(青木崇高)、そして殺されないまでもその寸前まで行く野崎(岡田准一)と比嘉真琴(小松菜奈)、野崎には元恋人に無理やり子どもを堕ろさせた過去があり、真琴は自らの手で身体を傷つけ子どもを産めなくなっています。

最初に死ぬ田原の同僚高梨重明(太賀)は、まあ導入ですからおまけでしょうし、ラストの対決の場で死ぬ霊媒師たち、その代表である逢坂セツ子(柴田理恵)は、子供たちの怨霊からしてみれば倒すのが当然でしょう。

という映画です。

ただ、ことはそう単純ではなく、この映画のいやらしいところは、ラスト、対決の場で野崎に子供たちは「甘えているだけだ!」(甘えたいだけだ!だったかな?)と言わせたり、大人たち、つまりは社会そのものと子供たちの怨霊の対決の後、どちらが勝ったとも結論つけず(つかないけどね(笑))、その野崎と真琴、そして田原夫婦の子供を残し、そこに、ある葛藤を乗り越えた新しい家族をイメージさせていることです。

そう描かざるを得ないのは、おそらく、日本の映画界を背負って立つ(のかな?)東宝の宿命でしょうし、CMで評価され世に出てきた(らしい)中島哲也監督のいやでも身についてしまった信条のようなものなのでしょう。

「下妻物語」「嫌われ松子の一生」の印象はすでに記憶はなく、前々作の「告白」ではほぼこれと同じようなことをこのブログに書いています。

とにかく、この監督の映画は逃げが多いです。逃げというのは、観客、というより映画製作の実権を持つ、広告で言えばクライアントになるかと思いますが、そうした力に対して媚びています(ペコリ)。

霊媒師の比嘉琴子(松たか子)で笑いを取ろうとするのもそうでしょうし、映画全体のスパンで何かを描こうとするのではなく、短いスパンで引きつけることに力を注いで、そのつど、皆ついてきてくれているかなとまわりを見回しながら作っている感じがします。

おそらく「霊」そのものを信じていない現実家なんでしょう。だからといってこうした「霊」ものを撮っちゃいけないわけではありませんが、この映画、内容が中途半端でまったく面白くないですよ。

冒頭から30分くらいの田原夫婦の結婚式や、いわゆるステレオタイプの田舎の猥雑さや嫁姑の関係を描いたシーン、あれ? 映画間違えた? と思ったくらいです。あれを入れた理由が私には全くわかりませんが、誰かが望んだんでしょうね。当然もっと短くすべきだとの意見もあったと考えられますし、もしそれがなかったとしたらそれはそれで大問題なんですが、とにかくそうした意見を抑える力が勝ったということで、それが監督なのか、プロデューサー側なのか、この映画は、映画そのものよりそうしたことに興味がいってしまいます。

時折入る怨霊を表現したモーショングラフィックスも「霊」の神秘的な面を打ち消そうとして入れていますよね。あれ見て、おどろおどろしさを感じる人はいないでしょう。そう感じさせないように入れているんでしょう。

クライマックスともいえる怨霊との対決シーン、全国から神社本庁系神道、宗派不明の仏教、山伏、それに李氏朝鮮の被り物をした人が奥で踊っていましたがあれも霊媒師なんですかね? といった雑多な人たちを集め、田原夫婦のマンションの前に意味不明の除霊のための神社なのかよくわからないものを建てて、その撮影のための設営シーンを撮影して使っていましたが、あれは身内向けのサービスでしょう。

ということで誰彼になく媚びた(ペコリ)映画だということです。

俳優としては、黒木華さんと妻夫木聡さんはやっぱりうまいですね。映画としては面白くもなんともありませんが、冒頭の30分のシーン、結婚式や田舎での華ちゃんの微妙な表情にはリアリティがありますし、妻夫木くんのアホ男の演技もアホさ加減にイヤミがないだけに苛立ちがつのります。

岡田准一さん、もっと見ているかと思いましたら、DVDで見た「永遠の0」だけでした。やっぱり主役タイプの俳優さんのようで、この映画でももっと早く出して軸に据えればと思います。

俳優の面でも、この映画、誰が主役なのかわからなくなっており、あっちこっちに気配りしたんでしょう。

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

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