中華料理(薬膳)は文化の壁を越える?
中国市場向けにつくられた映画か(多分そう)と思うほど中華料理が持ち上げられています。その点ではちょっとやり過ぎかなと思いますが、ラップランドの自然の中で料理を通してフィンランドと中国の価値観の接点が生まれるという映画です。
ミカ・カウリスマキ監督
病気まで直してしまう中華料理(薬膳なんですが)という映画ですので、ミカ・カウリスマキ監督はよほど中華料理が好きなのかと思いきや、そうではなく、中華料理については「実はずっとお気に入りの料理は日本食とイタリアンでした。ですがだんだんと中華料理も好きになりました」という程度のようです。(MOVIE Collection [ムビコレ])
そのインタビューによりますと、この映画の発想の原点は、ラップランドに殺到する中国人観光客に対する強い印象と脚本家から聞いた中国医学と食べ物の関係「あなたは食べたものでできている」という考えからのようです。
ところで、カウリスマキ監督と言いますと、まずアキ・カウリスマキ監督が浮かぶのではないかと思いますが、ミカ・カウリスマキ監督はそのお兄さんです。
ウィキペディアの経歴を読みますとすごく行動的な方のようです。ペンキ職人として働いていた22歳の時に映画監督になろうと学校に入り、卒業後の26歳の時にすでに弟(アキ・カウリスマキ監督)たちと映画制作配給会社を立ち上げています。
プロデューサーとしても監督としてもキャリアはすごいです。私は2014年に「旅人は夢を奏でる」を見ていますが、日本で劇場公開されている監督作品はあまりないようです。
ヴィンセント・ギャロやジョニー・デップが出ているこんな映画も監督しています 。
ネタバレあらすじとちょいツッコミ
物語自体に難しいところやややこしいところはなく、要は異文化交流映画ですし、この映画ではそこに衝突が起きるわけでもなく、最初は戸惑いつつもすぐに理解し合うようになり、いくつかのちょっとした事件が起きますが最後はうまく収まるという映画です。
チェン(チュー・パック・ホング)と息子がバスでラップランドの小さな村に降り立ちます。レストランに入ります。その店は地元の人々御用達のようなレストランで、オーナーのシルカ(アンナ=マイヤ・トゥオッコ)がひとりで切り盛りしています。
チェンの目的はフォントロンという人物を探すことです。チェンはフィンランド語を話せませんので片言の英語でシルカや地元客に尋ねますが、皆わからない、知らないと答えます。
この村の設定はキッティラというところらしくロケ地もそこです。ストリートビューで見ますと映画どおりの風景が見られます。
チェンはホテルはないかと尋ねますが、車で30分ほど離れたレヴィという町にしかないと言われます。しかし、シルカがホテルではないが部屋はあるとレストランの離れのような部屋を貸してくれます。
翌日、チェンがレストランにいますと中国人の団体客がランチを求めてやってきます。中国人はいきなり寿司はないかと言っていました(笑)。困り顔のシルカをチェンが助けます。チェンは上海でレストランをやっていた中華料理のシェフです。隣のスーパーマーケットで食材を買い集め、持ってきた調理道具をひろげ、すばやく麺料理をつくり団体客に提供します。中国人の団体客は喜んで帰っていきます。
フォーのようなライスヌードルを使っていましたがよくあれだけの料理をつくる食材が揃いましたね、というツッコミはなしの映画です(笑)。とにかくこういうお話ですので突っ込みだしたらきりがありません。
シルカはチェンにお金を払おうとしますが受け取らず、団体客は明日もやって来るようだから食材の用意をすると言います。隣のスーパーマーケットにはもう何もありませんので、レヴィまで買い出しに出掛けます。
翌日も団体客は大喜びで帰っていきます。またその料理が地元客にも提供されます。戸惑いはありますが、誰もがひとくち食べますと美味しいと顔もほころびます。
といった感じでシルカはフォントロンを探す代わりに店を手伝ってほしいとなり、次第にチェンはレストランにはなくてはならない人物になっていき、店のおすすめにも中華料理週間と出たりします。
ある時、チェンの息子がいなくなります。トナカイを追っかけて森の中に迷い込んでしまったのです。必死に探し回るチェンとシルカです。が、村人が見つけて連れ帰ってくれます。
どうなるのかなあと見ていましたが、あっさり見つかります。ヒヤヒヤすることがないのがこういう映画の良さかも知れません。見ていて楽ではあります。
中頃にはフォントロンの件も明らかになります。サッカー(だったと思う)の選手の名前だったのですが発音違いが原因でした。フォントロンは、チェンが上海でレストランをやっている時の親しい客で、チェンが妻を亡くし酒に溺れて店が危機に陥った時にお金を融通してくれた恩人ということです。その後チェンは立ち直り、その恩を返そうとやってきたというわけです。
しかし、フォントロンはすでに亡くなっています。皆で墓参りに行きます。
ということでフォントロンは片づきましたので、後半はチェンのビザが切れてどうするかということとチェンとシルカの恋愛が話の軸となって進みます。
すでにシルカにとってもチェンはなくてはならない人物になっており、村のダンスパーティー(なのか、皆で楽しく踊っていました)で踊るためにチェンにステップを教えたり、互いにこれまでの人生を語ることでその距離はどんどん縮まっていきます。シルカは結婚はしたが子どもが生まれないことで夫は離れていったと話し、チェンは妻を事故で亡くしていると話します。
その後湖畔へ移動しますが、あれは白夜だからですね。深夜と思われるのに明るいです。その湖畔で二人は唇を重ね、そして愛し合います。
シルカだけではなく村人たちにとってもチェンやチェンの料理は必要不可欠のものになっています。なにせ便通がよくなるわ、持病も治るわ、生理痛は解消されるわなどなど、薬膳の威力は凄まじいです。
村人たちですが、最初のシーンなど、レストランでもたくさん客が写り込んでいましたがどうやら二人を除いてロケ地の住人たちのエキストラだったようです。二人のうちのひとりは「旅人は夢を奏でる」の父親役をやっていたベサ=マッティ・ロイリさんでした。
その二人がチェンにフィンランドの文化を体験させようとサウナに連れていき、また日本で言えば屋形船のようないかだ風の船に誘い皆で語らい合います。
このシーン、実はその前に警官が来てチェンのビザが切れていて云々という振りがあり、その後に村人の二人がシルカに俺たちに任せておけみたいな流れでしたのでてっきり何か秘策があるのかと思いましたら、何のことはないこの船で皆でバーベキューをして飲んで話をするだけでした(笑)。
で、ラストシーン、警官がレストランにやって来ますが、すでにチェンとシルカは上海にわたっており、まるで海のような広大な長江(上海の高層ビル群が見えていたので多分)の小舟に揺られて幸せそうです。その二人を息子がスマートフォンで撮影しラップランドの村人たちに送っています。村人たちは二人の結婚を祝福しています。
レストランはどうするのでしょう? 多分、二人でラップランドに戻り再開するのでしょう。
ということで、たまにはこういう映画もいいでしょう。