あいも変わらず「絆」で語ってしまう日本の映画業界か…
1972年に起きた「ウルグアイ空軍機571便遭難事故」の映画化です。空軍機ですが、ラグビーチームがチャーターしていますので、乗っていたのはその選手や家族の一般人40名と乗務員5名です。うち16人が72日間のサバイバルから生還したそうです。
出版や映画化の多さが事故の奇跡性を現している…
この映画の原作は、パブロ・ヴィエルチ著『 La Sociedad de la Nieve(Society 0f the Snow)』という2009年に出版された本ですが、その他にも事故の2年後にピアス・ポール・リードという方が生存者のインタビューをもとに『生存者(原題: Alive: The Story of the Andes Survivors)』という本を出しており、これは日本語版があります。
また、生存者のナンド・パラードさんが2006年にこの本を下敷きにしたものに自身の回想を加えて『Miracle in the Andes』という本を出しています。
映画化も結構されています。知りませんでした。
他にも日本未公開のものやドキュメンタリーがあります。
事実とはおもえないような事実ですので映画化したくなるのもわかるような気がします。
50年後に事実の如きものを描いたところで…
ですが、50年も昔の話ですのであえて言いますと、事実がゆえにこういうサバイバル映画のような描き方はつまらないです。
サバイバルの詳細については日本語版のウィキペディアが無茶苦茶詳しいです。おそらく出版されている本をもとに書かれているんだと思います。映画のストーリーはほぼこの通りです。
当然先はわかっているわけですし、事実がゆえにあまり極端なことはできませんのでサバイバル映画としては地味にならざるを得ません。本当はもっと違った切り口で描くべき題材じゃないかと思います。
50年後の今描くものがあるとすれば、逃げずに、人肉を食べて生き延びたということ以外にないでしょう。
もちろんこの映画の中でもかなりの比重でそれは描かれてはいます。ただ、それはあくまでも空腹(そんな軽いものではないとは思いますが…)といった点から描かれているだけで、当事者にはもっといろんな葛藤があったんじゃないかと思います。
私はこの映画を見ながら、果たして自分はあの状況の中でどうするんだろうとずっと考えていました。もちろんまったく想像もつかない状況ではありますが、一番考えたのは、人肉を食べるか自ら死を選ぶかの選択が真っ先に来るのではないかということです。
とにかく、あまりにも極限状態のことですので今自分の中で考えることが通用するとは思いませんが、それでもこれは映画ということから言えば、もっと生きることの根源的なところへ迫るべき題材だということです。
50年前の事故に対しての描き方としてはあまりにも上っ面すぎる映画です。