ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。

日本のパンク・ミュージック ムーブメントの記録(的)映画

音楽業界のインディーズのことはほとんど知らないのですが、青春音楽ものであればジャンルはなんであれ、きっと楽しめるでしょう。それに出演者が若葉竜也、吉岡里帆、仲野太賀、間宮祥太朗ということですので映画としては期待もあります。ただ、主演の峯田和伸さんというのは名前も始めて見る方です。

ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。 / 監督:田口トモロヲ

ピンクレディやサザンの時代に…

映画からの印象では10年くらいのスパンの話かと思いましたら1978年から1981年までの3年ほどの話みたいです。たしかに映画中頃のシーンでモモ(若葉竜也)がユーイチ(峯田和伸)にまだ1年なんだよなと言っていました。本人たちにしてみれば相当濃密な時間だったということなんでしょう。

1978年ってどんな年だったのかみてみましたら、ピンク・レディー「UFO」が大ヒット、キャンディーズが「普通の女の子に戻りたい」と引退、サザンオールスターズが「勝手にシンドバッド」でデビューした年でした。

映画はそんな表の世界とは真逆な音楽の裏社会の話です。裏社会はジョークのつもりですが、ただ初っ端の未知ヲ(仲野太賀)の学祭でのライブは「ウラ」という表現もさほど違和感のあるものではなかったです。客に向かって豚の頭や臓物(なのかな…)を投げ込むわ、素っ裸になってダイブするわ、挙句の果てにションベンはするわの大、大、大暴走でした(笑)。実のところ笑えはしませんが、あれはザ・スターリンの遠藤ミチロウさんが実際にやっていたパフォーマン(でいいの?…)らしいです。

というシーンから始まるこの映画は、写真家の地引雄一さんの著作『ストリート・キングダム 最終版: 東京ロッカーズと80’sインディーズ・シーン』を原作としています。

少し長いのですが Amazon からの引用です。

1970年代終わり、ロンドンとNYから始まったパンク / ニューウェイヴのムーヴメントが日本にも伝わった。カメラマンの地引雄一は、東京のライヴハウスでこのインディーズカルチャーが生まれる瞬間に立ち会って衝撃を受け、写真を撮るだけでなく「Drive to 80’」などのライヴイベントを企画し、自ら主催する「テレグラフレコード」から新しい音楽を発信した。このインディーズシーンの中からは、リザード、フリクション、ミラーズ、S-KEN、Mr. カイト、NON BAND、スターリン、ゼルダ、じゃがたら等、後に伝説化されるバンドがいくつも登場した。

本書籍『ストリート・キングダム』は、そのシーンを体験した地引が著した、唯一の記録本である。

私はザ・スターリンしか知りません。

売れたいわけではない…

写真では食べていけない写真家のユーイチ(峯田和伸)はラジオから流れてきたセックス・ピストルズを聴いて感動し、たまたま見た手作りミニコミ誌「ロッキンドール」に手紙を書きます。折返しライブに来ないかのお誘いがあり、そこでロッキンドールを発行しているサチ(吉岡里帆)と出会います。ライブの出演バンドはモモ(若葉竜也)の TOKAGE や DEEP(間宮正太郎)の DEEP です。ユーイチは撮影許可を取ることなく夢中で撮り始めます。案の定メンバーの一人に咎められますが、サチがこの人は大丈夫と助けてくれます。

これを機にユーイチは専属カメラマンのような立場になり、サチからは印刷屋の自分とカメラマンのユーイチとレコード屋のモモが揃えばレコードはつくれると言われてミニコミ誌を手伝い始め、バンドのメンバーからも信頼されることになります。その後、S-TORA(大森南朋)を加えた5組のバンドで「東京ロッカーズ」のライブを決行して大ムーブメントとなり、ライブアルバムを出すことになります。

ここまでがひと区切り、映画はバンド名や人物名を変えて描いていますのでここで実名を上げておきます。カッコ内はバンド名です。

  • ユーイチ:地引雄一
  • サチ(ロボトメイア):小嶋さちほ(ZELDA)
  • モモ(TOKAGE):モモヨ(紅蜥蜴 -> LIZARD)
  • DEEP(DEEP):レック(Friction)
  • S-TORA(S-KEN):S-KEN(S-KEN)
  • ミニコミ誌ロッキンドール:チェンジ2000

資本主義の波に飲まれて…

注目を浴びれば当然メジャーのレコード会社からも声がかかります。

自由かお金かの選択を迫られます。バンドのメンバー間に軋轢が生まれます。それを映画は TOKAGE のモモで描いています。

TOKAGE はモモのバンドです。モモの音楽性で成り立っています。モモにしてみればレコード会社の要求は自由を手放せということに等しく抵抗します。しかし、バンドのメンバーにしてみれば、レコードが売れても作詞作曲のモモには印税が入っても自分たちには実入りがありません。お金が欲しいと言います。モモがキレます。メンバーに言っちゃいけないことを言ってしまったモモは精神的に不安定になりクスリに逃げます。そして、逮捕されます。

その頃ユーイチは自らライブイベントを立ち上げ成功を収めます。そのライブで初めてスタンディングというスタイルが始まったと言っていました。その成功を礎にしてサチとともにインディーズ・レーベル「Junk Connection」を立ち上げます。

記憶が曖昧で前後が違っているようです。Junk Connection はモモも一緒だったかも知れません。その後、モモが逮捕され、ユーイチ一人で「テレグラフ・レコード」というレコード会社兼レーベルを立ち上げます。

ユーイチはあとはモモのことだけだと言い、出所したモモに再起を促し、モモもその気になって終わっていました(だったと思います…)。

感想、考察:なつかしの記録映画

この映画は青春ものというわけではないですね。主人公であるユーイチが青春しているわけではなく、ユーイチは青春しているモモやサチを見ているだけです。

青春の記録映画ということでしょう。

大人になることで(比喩です…)自由を手放さなければいけなくなることに悶え苦しんでいるのはモモであり、そのモモの悶え苦しみを描いているわけではありません。

まあ原作がそうなんですからそうなるのは当然で、実際、映画の手法としては、ユーイチはドラマのユーイチでありながら時々、と言いますかかなり頻繁にカメラ目線でその時の状況説明をナレーションします。この時こうだったとか、この時自分はこうしたとカメラ(見ている我々…)に向かって語りかけるわけです。

演劇ではよく使われるブレヒトの異化効果という手法に近いものであり、見ている我々に客観視点をもたらす手法です。

そのようにつくられた映画ですので、言うなれば、このムーブメントを知らない者には、へぇ、こんな事があったのかと知らせればいいわけですし、知っている者には懐かしく感じられればいいわけです。

その意味ではユーイチに峯田和伸さんという銀杏BOYZ(私は知らない…)のミュージシャンを当てているのは正解なんだろうと思います。

ところで吉岡里帆さん、始めて見たのは

でストリートミューシャンの役でした。この映画よりは面白かったですね(ゴメン…)。