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世界の涯ての鼓動

(ネタバレ)ヴィム・ヴェンダース監督の最新作はラブサスペンスか?

2019/08/03

ヴィム・ヴェンダース監督、73歳、まだまだ精力的です。1,2年に1本の割合で撮っている印象です。

前作の「アランフェスの麗しき日々」では言葉の洪水でついていくのが大変でしたが、この「世界の崖ての鼓動」は、しばらく前から流れていた予告編を見て、ん? ヴィム・ヴェンダース監督? と、何となくベタな恋愛ものの印象でちょっとした違和感を感じた映画です。

世界の涯ての鼓動

世界の涯ての鼓動 / ヴィム・ヴェンダース

んー、ベタとは言いませんが、何だかもやもやするなあという映画でした(笑)。

なぜかといいますと、物語に進展がないのです。公式サイトのストーリーを引用しますと、

ノルマンディーの海辺に佇むホテルで出会い、わずか5日間で情熱的な恋におちたダニーとジェームズ。だが、生物数学者のダニーには、グリーンランドの深海に潜る調査が、MI-6の諜報員であるジェームズには、南ソマリアに潜入する任務が待っていた。恐れは現実となり、ダニーの潜水艇が海底で操縦不能に、ジェームズはジハード戦士に拘束されてしまう。

ということなんですが、映画自体これだけです。

公式サイトではこの後、「果たして、この極限の死地を抜け出し、最愛の人を再びその胸に抱きしめることができるのか──?」と盛り上げを図っていますが、残念ながら抱きしめられません。

といいますか、ラブストーリーとしては中途半端に終わっていますので、ふたりのその後はわかりません。ダニー(アリシア・ヴィキャンデル)の潜水艇は故障も直り浮上するところで終わります。ジェームズ(ジェームズ・マカヴォイ)の方は任務も成功し脱出するところで終わります。ただ、ラスト、大の字に浮かんでいるところを下から撮ったカットで終わっていましたので生死はわかりません。

きっと、これ、ラブサスペンスを期待していい映画じゃないんですよ。

じゃあ何だ? と言われても難しいのですが、ヴィム・ヴェンダース監督であることでひいき目にみればですが、ポイントは、ダニーは深海探査艇で水中深く「潜り」「沈む」わけですし、ジェームズはソマリアに到着するもすぐに拘束され、穴蔵の暗闇に「沈み」込んでいくところではないかと思います。映画の流れからすると特に意味があるとは思えないのに、わざわざ地下深くへ続く細長い牢獄に移動させられ、中に突き落とされていました。

どちらも「閉ざされた空間」「落ちていく世界」みたいなものがイメージされているように思います。 

ふたりの出会いにしても、一般的な恋愛映画では考えられないような刺々しさ(荒々しさ?)があります。言葉も多く、互いに傷つけ合うかのようです。ふたりともエリート意識が強い描写です。ただ、脚本はヴェンダース監督ではありません。

そして、互いに愛し合うようになるのですが、この展開もかなり特徴的で、ほとんどダニーがリードするように描かれています。ふたりがダニーの部屋に入るシーンでは、ダニーがジェームズに「チキン」と言ってドアを開けたままにしますし、服を脱がしたり、体を重ねるシーンでも、かなりダニーのリードが意識されています。

そして、別れの日、 ダニーをやっているアリシア・ヴィキャンデルさん、この一連のシーンはとてもいいです。芯のある力強い役ははまるんですね。「リリーのすべて」は(映画自体が)よくありませんでしたが、「光をくれた人」はよかったです。

で、映画はここらあたりで1/3くらいだと思いますが、この後の展開がないんですよ。ジェームズはソマリアに到着するシーンがワンシーンあり、その後はすべて拘束されたシーン、ダニーの方はと言えば、これが、どんなシーンがあったか思い出せないくらいです。

深海探査艇に乗り、北大西洋(だったかな?)の深海に同僚ふたりと潜るシーンはラスト近くわずか10分くらいだったと思います。それまではジェームズからの連絡がないことで落ち着かない日々を過ごすだけです。

深海のシーンをもっと入れればと思いますが、何か入れられないわけでもあったのでしょうか。原題の「Submergence」からしてもそういう映画じゃないかと思います。

ジェームズがソマリアで出会うサイーフ(レダ・カテブ)や医師の役回りも非常に曖昧でした。宗教絡みのやり取りも中途半端で意図がよくわかりませんし、アルカイダ系の組織にもある種の正義があり慈悲もあるような表現でしたが、もしそうだとすれば、それはかなりベタでしょう。ここはもっと突っ込んだ描写が欲しいところです。

ジェームズのソマリアとダニーの海(深海)の対比にもっと緊張感があればよい映画だったようにも思います。

ふたりが出会うノルマンディー地方の美しい「緑」と海の「青」、ジェームズが拘束される南ソマリアの殺伐たる「白」あるいは「黄」、そしてふたりがともに閉ざされる「黒」の世界、そうした色を見せる映画だったのかもしれません。

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