7月の物語

勇者たちの休息ギヨーム・ブラック監督のセンスが光る

「7月の物語」71分、「勇者たちの休息」38分、さらに「7月の物語」の方は、実質的には「日曜日の友だち」と「ハンネと革命記念日」の2本に分かれているという、劇場公開作としてはかなり変則的です。

ただ、「7月の物語」を見れば、ギヨーム・ブラック監督の良さは十分に伝わりますし、他の作品も見たくなることは間違いありません。

7月の物語
7月の物語 / 監督:ギヨーム・ブラック

ギヨーム・ブラック監督の映画を最初に見たのは、2014年の「女っ気なし・遭難者」なんですが、それぞれ58分と25分でした。それに製作年も少し前の2009年と2011年で、日本初公開(多分)としては、これもやや変則的といえば変則的で、その同じ年に、2013年製作の初の長編「やさしい人(100分)」が公開されています。

何が言いたいかといいますと、普通ですと、最初に「やさしい人」で売り出しておいて、その監督のデビュー作(でもないけど)として過去の作品を公開するというのが常道かと思いますが、配給さん(全て同じでエタンチェ)にも何か考えがあったんでしょう。エタンチェさんって、ググってもあまり情報がありませんね。

それにしても、こういう映画を買い付けてくるんですからすごいです。会社なのか個人なのかわかりませんが、頑張って欲しいです。なかなか採算をとるのが難しいんじゃないかとは思います。

ところで、ギヨーム・ブラック監督って寡作タイプなんでしょうか、IMDb をみても、新作の「L’île au trésor (Documentary)」以外はほぼ見ています。監督以外に何かやっている方なんでしょうか、教師とか…。

というのは、この「7月の物語」は、インタビュー記事によりますと、

企画はフランス国立高等演劇学校で行われた、カメラの前で芝居を実践するワークショップからスタートしたという。(略)映画への出演経験がある俳優はおらず、雇えるスタッフもたった3人という状況だったが、それぞれ5日という短い撮影期間で、2016年7月のバカンスの始まりに浮き立つ若い男女の戯れを捉えた。

ということらしいです。フランス国立高等演劇学校で教えているということなんでしょうか。

出演者は学生、俳優を目指してはいるがまだ出演経験はないということです。そうとは見えませんね。上手い下手とかいうことではなくきっちり映画になっています。経緯はわかりませんので結果としてということでいえば、監督の手腕ということになるのでしょう。

それに、このフランス国立高等演劇学校というのもすごいですね。国立であればいいということでもありませんが、文化に対する考え方の違いを感じます。日本じゃ相変わらずクールジャパンですからね。ソース未確認ですが、吉本に100億円が流れている(流れる?)という話もありますし、何年か前にやっていたカンヌでのキャンペーンはどうなったんでしょう?

これくらいにして(笑)映画ですが、実は、これを見たのがもう一週間も前で、とてもいい映画なんですが、なぜかこれを書いておこうという(絶対的な)意欲みたいなものが沸いてこず今になってしまいました。

良さが、なかなか言葉にしにくい微妙な間合いや話の進め方なんです。物語自体はごくごく日常の出来事で、たとえば、「日曜日の友だち」は、女友だち二人がレジャーランドへ遊びに行き、ちょっとしたことで気まずくなり別行動となりますが、最後にはそれぞれ自分に起きたことを話しながら仲良く帰るという話です。

このレジャーランドは、日本未公開の最新作「L’île au trésor」 と同じ場所のようです。

女性二人、リュシーは人づきあいがやや苦手なタイプ、メレナは逆に積極的なタイプと、どちらの人物像もとてもうまくはまっています。さっと見抜いても物語を組み立てるんでしょうか、すごいですね。

二人が気まずくなるのは、ナンパ男のジャンがメレナに対して積極的にアプローチするからなんですが、ジャンのキャラはいわゆるフランス男(ペコリ)のイメージですのでそれはいいとして、それに対して、メレナがリュシーのことなどまったく構うことなくジャンに気がいっていることにリュシーがキレて(というほどでもない)ひとりで行動し、そこで出会うのが野原でフェンシングの練習をする男という、なんとも微妙なセンスがとてもいいです。

俳優を生かすことがうまい監督です。

「ハンネと革命記念日」の方は長編にもなり得る物語です。

初っ端のシーンでこの映画のトーンが決定されます。朝、女がベッドで、男が床で寝ています。男が眼を覚まします。しばらく女を見ていたと思いましたら、おもむろにパンツの中に手を入れ自慰を始めます。女が眼を覚まし、出ていけ!と追い出します。声に驚いたのか、女の友人が部屋に入ってきて、笑いながら何か解説するようなことを言っていました。

パリ国際大学都市の学生寮です。女はノルウェ−からの留学生ハンネ、男はイタリア人のアンドレア、二人は付き合っているわけではありません。ハンネがいうのは、アンドレアが寂しいからここで寝させてくれと言ってきたということです。女の友人はサロメです。

学生寮の生活感がワンシーンで伝わってきます。

その日は革命記念日、翌日に帰国するハンネがパリの街を歩きます。ひとりの男がハンネの後をつけ始めます。映画のトーンからは犯罪性は感じられずナンパ目的とはわかりますが、アブナイだろう、この男!とは思います(笑)。

そしてある街角、ハンネは気づいていたようです。咎めるハンネに、男ロマンは悪びれることもなく、夜花火にいかないかとナンパしてきます。しつこいロマンに誘いを受け入れます。

寮に戻ったハンネは、アンドレアに朝のことをセクハラよ!と咎めます。アンドレアはゴメンと謝りはするものの、君が好きなんだと悪びれる様子もなくイタリアしています(笑)。

そこに、ロマンがハンネを迎えに来ます。興奮状態のアンドレアはロマンを殴り飛ばします。鼻血を出して大騒ぎするロマン、そこにサロメも加わり、救急隊員(学校専属の警備員?)を呼びます。

あれこれコント(吉本ではない)があり、ロマンは退散、一方サロメは救急隊員のシパンを気に入ったらしく、その日の夕食に誘います。ここも面白いのですが、アンドレアは料理が得意だからと、喜んでパスタ料理を作っていました。

そして食事会、四人各人の微妙な気持ちの揺れがみえて面白いです。見てくださいね。

で、話題はシパンにいきます。自分はアルメニア出身で、この学校に憧れているといったことを語り、実はコンテンポラリーダンスを習っているといい、皆に踊ってと言われ、照れながらもアンドレアのギター演奏で踊り始めます。

ここもいいシーンです。シパンのダンスに刺激されたのか、ハンネが体を動かし始め、次第に高揚し、あたかも求愛のダンスかのようにシパンに体をすり寄せます。激怒するサロメは出ていってしまいます。場は一瞬にして冷め、シパンは慌てて出ていきます。アンドレアも何でしたか、捨て台詞のような言葉だったような、そんなことを投げ捨て出ていきます。

ひとり残されたハンネは泣いています。カメラは街の夜景にパンし、そこにニースで起きたテロ事件のラジオの音声がかぶります。

2016年の革命記念日、「ニースの遊歩道プロムナード・デ・ザングレにおいて、花火の見物をしていた人々の列にトラックが突っ込んだ事件」が起き、「少なくとも84人が死亡し、202人の負傷者が出た」事件です。(ウィキペディア

そして次の日の朝、ハンネは眠るアンドレアにキスをし、キャリーバッグをゴロゴロ引きながらパリ国際大学を後にします。

とにかく、ギヨーム・ブラック監督はセンスがいいです。もっともっと撮って欲しい監督です。