世界のはしっこ、ちいさな教室

ブルキナファソ、シベリア、バングラデシュの辺境地で奮闘する先生と子どもたちを描いたドキュメンタリーです。2013年に「世界の果ての通学路」という映画がありましたが、プロデューサーがバーセルミー・フォージェアさんという同じ方です。

世界のはしっこ、ちいさな教室 / 監督:エミール・テロン

5言語が飛び交うブルキナファソ

ブルキナファソ、シベリア、バングラデシュ、三ヶ所の話が交互に語られていきます。

ブルキナファソの先生はサンドリーヌ・ゾンゴさん、首都ワガドゥグで夫と2人の娘と暮らしているとのことです。赴任地へ出発する際に子どもたちとの別れを惜しむシーンはあるものの夫は登場しません。

サンドリーヌさんは国立初等教育学校で2年間学んだばかりの新人教師です。最初の赴任地はワガドゥグから南西の村ティオガガラです。GoogleMapで直線距離を測りますと300kmくらい、実際の移動距離はその倍600kmとあります。インフラが整備されているわけではありませんので赴任地に向かうだけでも大変です。任期は6年です。

任地に着きますと校長先生が迎えてくれます。ただ、教室も住まいも我々が思うようなものではありません。電気も水道もありません。これが学校です。

そうした環境はともかくも、一番の問題は生徒たちの理解する言葉がバラバラ(5言語…)で、公用語であるフランス語もほとんど理解できないのです。サンドリーヌさんはひとりの生徒に通訳を頼んでいました。

そんなこんなの1年間が描かれていきます。ただ三ヶ所ともそうなんですが、密着して撮っているという印象はなく、割と表面的な映像が多いです。その画の前後であるとか、裏にある事実を知りたいという思いが湧いてくる映画です。

またこれも三ヶ所とも同じで、それぞれひとりの生徒に着目してドラマを作っています。ここブルキナファソでは、引っ込み思案の一人の生徒が1年後には皆にも馴染み明るい笑顔を見せたというドラマです。

シベリアの移動教室

一転してシベリアになります。旧エヴェンキ自治管区だとしますとロシアの中央部です。先生はスヴェトラーナ・ヴァシレヴァさん、トナカイの遊牧と狩猟で暮らすエヴェンキ族の子どもたちのためにトナカイそりで移動して教えています。目的地に着きますとまずは学校と住居のためのテント張りからです。

あまり詳しく描かれませんのでよくわかりませんが、集団生活をしていないからなのか、ひと家族のためだけに来ているように見受けられ生徒も3人だけです。家庭教師のような感じです。10日間くらい滞在して教えるとあります。

教えるのは、ロシアの義務教育だけではなく、エヴェンキ族の伝統や言葉などアイデンティティに関わる事柄も含まれているそうです。投げ縄でトナカイを捕獲するシーンがありましたのであれも教育の一環ということなんでしょう。

このパートでもひとりの子どもに焦点が合わせられています。ただ、どういうドラマを語っていたかは記憶していません。何かが大きく変わるということはなかったからだと思います。

スヴェトラーナさんは、エヴェンキ族とユネスコの協力で設立されたエヴェンキ・セカラン協会に所属しており、そこから派遣されているということのようです。

バングラデシュの船上教室

バングラデシュは船上の教室です。先生が船に乗って子どもたちを迎えに行くようです。下の画像の船首に立っているのが先生のタスリマ・アクテルさん、何だ、このカッコよさは! という感じで始まります。それに朱色のドレスが無茶苦茶きれいなんです。

タスリマさんはNGOのBRAC(bangladesh rural advancement committee)から自分の居住する村に派遣されているようです。ですのでタスリマさんの家族のシーンもあります。

このパートでは児童婚に焦点が合わせられています。バングラデシュは児童婚の多い国の一つらしくUNICEFの2019年の統計では15歳で結婚しているのは22%、18歳以下で59%とあります。

授業中に生徒の母親が娘を迎えにきます。兄の婚約者が来ているので(だったと思う…)会わせるためだと言っています。あまりよくわからない状況ではあるのですが、ここはタスリマさんが説得して母親だけを帰します。その後、その生徒に結婚の話が持ち上がります。生徒の年齢や学年がはっきりしませんが、後に中学(中等教育)に進むことになりますので11、2歳ということだと思います。

母親は娘の婚約相手からの持参金がないと兄を結婚させられない(だったと思う…)とか、娘を中学に行かせるお金はないと言っています。それをタスリマさんが説得して中学へ行かせることになります。タスリマさんが制服をプレゼントしますと娘はもちろんのこと母親も笑顔を見せていました。

ただどうなんでしょう、母親の言うことが事実だとしますとこの映画の中のやり取りだけで説得できるとは思えないのですがどうなんでしょう。

制作プロダクション Winds

という三地域の先生と子どもたちが描かれています。

ただ、3つともにストーリーがきれいすぎます。ドキュメンタリーであってもつくり手のストーリーを語るのが映画ですから、そのこと自体はいいとは思いますが、たとえばブルキナファソの場合、5言語が使われているというシーンで先生が何語がわかる人は?と尋ねて、5言語それぞれに手をあげた子どもたちの数を見たときには、こりゃ無理じゃないかと思ったのですが、その後映画は言葉による教えの障害を描くことはありません。またすでに書きましたが、バングラデシュの母親の説得も相当困難だったと思われますが、その困難さが感じられません。

映画に嘘があるとは思いませんが、語られるストーリーにあまり説得力の感じられない映画です。

それぞれの地域の教育環境がよくないのは間違いないでしょうし、3人の先生たちの意欲にも情熱にも嘘はないでしょう。ただ、映画がそれを伝えようとしているかには疑問が残ります。きれいにまとめたいとの意識が強く出すぎています。

世界の果ての通学路」ではそうした感じを受けた記憶はありませんので監督の違いによるものかも知れません。この映画はエミリー・テロンさんという監督です。

ところで、この映画のプロデューサーのバーセルミー・フォージェアさんの制作プロダクション Winds には NHK との共同制作の「A Night on Earth: Africa」という作品があるんですね。NHK 内ではリンクが「ダーウィンが来た」に飛びますのでその中で放送されたんでしょうか。