アシスタント

ドキュメンタリー監督らしいじわーと効いてくる映画だが、公開のタイミングを逸している…

ニューヨーク・タイムズがアメリカの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクシュアル・ハラスメントに関する告発記事を発表したのが2017年10月5日、それを契機に世界中で「#MeToo運動」が巻き起こりました。もちろん現在進行中でもあります。

この映画は、そうした映画業界のセクハラ体質にとどまらず女性蔑視の構造をプロデューサーのアシスタントとして雇用された女性の目線でリアルに描いています。

アシスタント / 監督:キティ・グリーン

後味の悪さはうまさの裏返し…

監督はキティ・グリーンさん、「ジョンベネ殺害事件の謎」や「Ukraine Is Not a Brothel」というドキュメンタリーを撮っている方で、この「アシスタント」が初のフィクションのようです。

ドキュメンタリー監督っぽい映画です。大手映画製作会社に雇用されて2ヶ月(わざわざ5週間だろうとクギをさされていた…)のジェーン(ジュリア・ガーナー)を追い続けます。ジェーンとジェーンの見た目の画以外にはありません。それに、カメラが捉えたもの以上には説明しようとはしません。

その点では潔い映画です。

ハーヴェイ・ワインスタインを思わせるボスは存在しますが登場はしません。そのボスのセクハラ、性加害、性虐待も映像として描かれるわけではなく、その行為が行われているとジェーンが感じている様子が描かれていくだけです。

見ていてかなり胸糞悪い感情にとらわれます。さらに気分が悪くなるのが、そのボスの行為を社員みな知っており、容認しているのです。その典型が、ジェーンが意を決してコンプライアンス部門に告発にいくシーンで、その担当者はしばらくはジェーンの気持ちを落ち着かせようと穏やかな聞き手のふりをするのですが、次第に自分の将来を棒に振るのかと握りつぶそうとするのです。挙句の果てに、そのジェーンの告発はすぐにボス以下同僚たちにも知れ渡ってしまうのです。

とにかく後味の悪い映画です。うまさの裏返しでしょう。

公開のタイミングが悪すぎる…

ですが、如何せん、公開(日本の…)のタイミングを誤っています。

アメリカでは、2019年8月30日にテルライド映画祭でプレミア上映され、翌年1月に一般公開されています。4年前です。

この映画のように、明確な告発ものではなくじわーとボディーブローのように効いてくる映画は時を逸しますと伝わるものも伝わらず、後味の悪さだけが残ってしまいます。

特にこの映画のジェーンは直接の被害者ではなく、セクハラ、性加害を目撃したときにどうするかという、一般にも、より遭遇する可能性の高い立場の話であり、また周りの男性たちの反応もあるあるパターンになっています。

もったいないですね。公開が今になったのは新型コロナウイルスのためなんでしょうか。

ジェーンはどうしたらいいのだろう…

大手映画製作会社に雇用されたジェーン(ジュリア・ガーナー)は映画プロデューサーのアシスタントとして働いています。アシスタントといっても、映画の中では細々とした雑多な作業のシーンだけで、まだ暗い中出社し、ボスの部屋を片付けたり、その日必要な資料を準備したり、来客に飲み物を出したり、電話を受けたりするシーンが最後まで続きます。

カメラはジェーンを追い続けますので、周りで進行していることは断片的にしか分からず、時に会長がどうこうとか、スケジュールがどうこうとかの声が入るだけです。ですので、社内で何が進行しているのかはよくはわかりません。伝わってくるのはジェーンが感じている期待とのギャップです。

ボスは身勝手でクレームが入ったりします。ボスの妻から電話が入り当たり散らされます。同僚の男たちは嫌な役回りをジェーンに押し付けてきます。

演じているジュリア・ガーナーさん、うまくはまっています。疲れ、迷い、うんざり感、よく伝わってきますし、現実感があります。

アイダホから女性がやってきます。ボスからアシスタントとして雇うと言われたと言っています。同僚の男たちにはひと目見てすぐに察知します。ジェーンは女性をホテルに連れて行くように命じられます。女性はジェーンに、あなたのときもこうだったのと尋ねています。つまり、女性はホテル住まいで雇用されるものと思っているということです。

ジェーンは意を決してコンプライアンス部署に告発することにし、今女性をホテルに連れて行った、ボスもいなくなっているのでホテルに向かったと思うとためらいながら話します。また、ボスの部屋で女性のブレスレットを拾ったことがあり、その女性が取りに来た(ボスが部屋で女性に性的強要をしたと想像できるつくりになっている…)ことも話します。

すでに書きましたように、その担当者はジェーンの告発を握り潰します。そして帰り際のジェーンに、君は大丈夫だ、彼の好みじゃない(これもセクハラ…)とまで追い打ちをかけるのです。

デスクに戻ったジェーンに即座にボスから電話が入り、謝罪文をかけと命じられます。キーボードを打つジェーンの後ろに同僚の男二人がやってきて謝罪文の指示を出しています。

プロデューサー風の女性が一人の女性を連れてボスの部屋に入っていきます。オーディションを餌にした性加害目的と思われます。女性を残してプロデューサー風の女性は去っていきます。ボスからジェーンに帰っていいと電話が入ります。

気が重いままのジェーン、向かいのカフェでマフィン(かな…)を頼み食べようとしますが食欲がありません(多分…)。見上げるボスの部屋には明かりがつき、人が動く気配があります。

ジェーンはとぼとぼと家路につき、暗闇に消えていきます。

うーん、気が重くなる映画です…。