1300kmのローカルバスの旅、果たしてその目的は…
公式サイトの宣伝コピーに「数々の映画祭での受賞・ノミネート歴を誇る名監督として評価されるギリーズ・マッキノン監督」というものがあり、え? まったく知らない監督だぁ…と過去のタイトルを見てみましたが、やはりどのタイトルも見た記憶のない監督でした。
現在74歳、スコットランドの監督で「ウイスキーと2人の花嫁」「グッバイ・モロッコ」といったタイトルがあり、「ウイスキーと2人の花嫁」のトレーラーを見てみましたら面白そうです。
ローカルバスの旅
90歳のトム・ハーパー(ティモシー・スポール)がイギリス スコットランドの最北端の村ジョン・オ・グローツからバスを乗り継いでグレートブリテン島最南端の村ランズ・エンドを目指すロードムービーです。地名通りのまさしく地の果てから地の果てまでの旅です。映画の中でも語られていましたが1300kmくらいです。
なぜそんな旅をするのかは映画の中で徐々にわかってきます。ただ、それは隠されているわけではありませんし、それがわかることで盛り上げようという映画ではありません。
映画は、1950年代の若きトムと妻メアリーのシーンから始まります。メアリーがトムに遠くへ連れて行ってとやや懇願気味に言っていましたので駆け落ちなのかと思いましたが違っていました。映画の中ほどでわかります。二人はランズ・エンドからジョン・オ・グローツへ。
そして70年後(60年?)、今度はジョン・オ・グローツからランズ・エンドへ。しかしこの旅はトム一人です。旅はメアリーと出会い愛し合った場所へ返る旅であり、メアリーとの約束を果たす旅でもあります。メアリーは亡くなっています。
ロードムービーは人との出会い
ロードムービーですので様々な人との出会いが描かれていきます。
ジョン・オ・グローツのバス停での青年との会話、青年が軍隊に入るつもりだと言いますと、トムは自分は15歳の時に年齢を偽って志願し担架で死体を運んだなどと語ります。嘘とも本当ともつかない話ですが、青年は来た道を戻っていきます。
道路に故障車がいてバスが前に進めません。トムはバスを降りてその車を押し始めます。高齢のトムの見た目からするとかなり違和感のある行為なんですが、おそらくトムが先を急いでいることを示したかったことと、その行為をスマホで写真に撮る人物がいるカットを入れたかったのでしょう。
といった感じで、様々なエピソードが語られていきます。ただどのエピソードも断片的でかなり中途半端な印象のまま終わっています。トムが先を急いでいるということが強調されていますのでそのせいもあるのでしょうが、ロードムービーとしてはあまり情感はありません。
カバンを盗まれ、お金をやるからカバンを返してくれと取り返したり、これはお金よりも大切なものがカバンに入っているということです。子どもに折り紙でカエルを作ってあげたり、男に絡まれるブルカを着たイスラムの女性をかばったり、バスを乗り過ごして倒れているところを助けられたりします。
ところで、割と早い段階で老齢のトムとメアリーが医者からがんを宣告され余命数ヶ月と告げられるシーンがあり、メアリーのことなんだと思っていたのですが、そうではなくトムのことでした。だから旅を急いでいるということであり、体調が悪く倒れたり、後半などは歩くのもやっとだったのは病気のせいということでした。
じゃあメアリーは? ということですが、映画の中ほどでトムが庭で倒れているメアリーを発見するシーンがありました。こういうシーンの入れ方もそうですが、率直なところ、映画のつくりはあまりうまくありません。こうした映画に重要な映画の流れというものがなくリズムが生まれません。挿入されるエピソードにしてもメリハリがなく単調です。
その他のエピソードとしては、トムは高齢者用のフリーパスでバス移動しているのですが、イングランドに入るやそのパスは使えないとバスを降ろされたり、歩いていますとウクライナ人が車に乗せてくれ家に誘われたりし(トムは嫌がっていたけど)、そして、次第にバスもお金はいらないと言われ始めます。それまでの2、3シーンで乗客などがスマホで写真や動画を撮ったりするところがありますので、トムのバスの旅が SNSで拡散されているということです。
ランズ・エンドに到着です。トムは墓地に向かいます。墓石にはマーガレット・ハーパー(だったか?)1950年から1951年の日付が記されています。トムとメアリーの間に娘が生まれ、亡くなっていることはすでに映画の中でフラッシュバックされていましたが、その娘はランズ・エンドで生まれ、おそらく病で亡くなったということでしょう。それがランズ・エンドを離れた理由でした。
そしてトムはランズ・エンドの岬に降り立ちます。バスを降りますと大勢の人々が拍手でトムを迎えます。SNSでトムを知った人々です。怪訝な面持ちのトムですがかすかに笑顔を見せて岬の突端に向かいます。そして、カバンの中から四角の缶を出し、海に向かってそのふたを開けます。メアリーの遺灰です。
ロードムービーとしてはさみしい?
あまり感動的な映画も引きますが、もう少しメリハリがないとつらい映画です。それぞれのエピソードが触りだけのように同程度の扱いで並んでおり中途半端なことがその原因でしょう。ひとつふたつのエピソードをもう少し厚く描くか、もしくはトムの人物像に力点を置くか、なにか映画を引っ張っていく要素が必要です。