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タッチ・ミー・ノット

(ネタバレ・レビュー)ローラと秘密のカウンセリングがサブタイトルとはどうよ?

2020/09/03

2018年のベルリン映画祭で金熊賞を受賞しています。

「ベルリン金熊賞史上、最も議論を呼んだ問題作」なんて宣伝文句が使われている映画です。問題作であるかどうかは別にして確かに劇場公開には迷う映画ではあります。

その所為か配給はこれまで目にしたことのない「ニコニコフィルム」となっており、ニコニコ動画が新たに配給会社でも始めたのかと思いましたら、そうではなく東京工芸大学の映像サークルを前身とした団体のようです。

タッチ・ミー・ノット

タッチ・ミー・ノット / 監督:アディナ・ピンティリエ

劇場公開に迷うというのはひとつには採算面の話ですが、やはり悪い予感は当たってしまうもので売らんがためでしょう、サブタイトルに「ローラと秘密のカウンセリング」などという映画がやろうとしていることとは正反対の言葉を使っています。

まあそんな言葉につられて見に行く人もいないとは思いますが。

迷うという点でもうひとつ、この映画はつくり手と同じ問題意識を持っていないと映画としては楽しめません。映画としてはかなり押し付けがましいです。

公式サイトの Director’s note によく現れています。

一部引用しますと、

『タッチ・ミー・ノット』が作ろうとしていのは、鑑賞者が人間についての知識を深め、それぞれの親密な関係に関する経験と考えをあらためて評価する、(自己)反映と変化のための空間です。特にフォーカスをおくのは、客体化を止め、人との交流をより人間味のあるものすること、他者への好奇心を高めること、そして自分を他者の肌に重ね感情移入する力についてです。私は人間性を理解し、他者を自分の姿、またはもう一人の自分のように捉える視点を持つことは、心の内の自己と他者との関わり方において本質的な変化をもたらす力になり得ると信じています。

というのがアディナ・ピンティリエ監督の考え方ということで、それを125分間にわたって執拗に見せつけられます。

つまり、他者と肌を重ね合わせることで自己と他者の垣根は取り払われ一体化できると言っており、なぜそれが必要かはその前段で語っています。

親密性は人間が生きていくうえで核となりますが、(略)親密性の歪みは、争い、虐待、差別、偏見の土壌をさらに広げ、社会や政治にまで影響をおよぼします

他者との親密性の歪みが社会や政治にまで影響を及ぼしているので、この映画を見て鑑賞者は自分自身に反映させ変化してほしいということです。

という非常に理屈っぽい映画です。悪く言えばかなり上から目線とも言えます。それは映画の構造に現れています。

この映画にはピンティリエ監督自身も登場します。二重構造と言っていいかと思いますが、映画の中で、まず客席に向かってカメラが備え付けられその前にディスプレイ枠が置かれピンティリエ監督がそこからこちら側に向かってインタビューするスタイルで始まります。

こちら側には、人(他者)との身体的触れ合いに身体的拒否反応が生じるローラ(ローラ・ベンソン)がいます。そのローラがいくつかのカウンセリングを受け、また病院で見かけたグループカウンセリングに参加しているトーマス(トーマス・レマルキス)に興味を持つことでその拒否反応を克服する姿が描かれていきます。

当然ローラはあなた達だよと言っているわけです。

ローラが受けるカウンセリングは、まず MtFのトランスジェンダーでセックスワーカーのハンナ・ホフマンさん、そしてシーニー・ラブさん、こちらは映画ではよくわかりませんでしたので公式サイトからの引用で、「BDSM、ネオタントラなど使用したエロティックなサービスをエスコートしている」カウンセラーです。

ふたりとも実際にカウンセリングをしている方ではありますが、ローラは俳優が演じていますので当然カウンセリングも演技です。

映画全体としてもドキュメンタリーっぽくは作られてはいますが完全に作り込まれたモキュメンタリーです。ただ、虚構だとわかるように作られていますのでフェイクという意味ではありません。

撮影の仕方としては、特に物語があるわけではありませんのでローラの人格説明をしてぶっつけで何テイクか撮っているのではないかと思います。ふたつのカウンセリング、どちらも2シーンずつ使われていましたが(私には)さほどローラが変化したようには見えませんでした。

トーマスが参加しているグループカウンセリングは、クリスチャン・バイエルラインさんを中心に進みます。バイエルラインさんは脊髄性筋萎縮症(SMA)というALSと同じ範疇に入る筋委縮症を患っています。

ローラがこのグループカウンセリングに直接接触することはありません。多分、ローラ=鑑賞者が見ているという意図のシーンであり、映画の鑑賞者のマジョリティである健常者にあるとピンティリエ監督が考える障害者(マイノリティ)に対する偏見が自己と他者を隔てるひとつの壁になっているということだと思います。

後半になりますと、バイエルラインさんの現実のパートナーである陶芸家のグリット・ウーレマンさんも登場します。最初からいたのを見逃しているかも知れません。

このグループカウンセリングには他にも数人が参加していますが、特別注目されることはなく、またその中のトーマスの位置づけも曖昧です。トーマスがカウンセリングを受けているのか、もしそうなら何に対して受けているのかよくわかりません。

そのトーマスが行く流れのシーンだったか、秘密クラブのシーンがあります。これも2シーンあるのですが同じクラブなのかどうかよくわかりません。そこで行われていることは複数人でのセックスや SM、シーニー・ラブさんの紹介に BDSM とありますのでその流れだったのかも知れません。

といった障害者への偏見や性の多様性(でいいのかな?)へ偏見を取り払いなさいと映画は執拗に語りかけてきます。

そして、ラスト、ローラはひとり裸で踊ります。ただ他者との接触を拒否しなくなったということではなさそうです。そのようには描かれていません。

ああ重要なことを忘れていました。ローラが病院に通っているのは父親が入院しているからで、その父親は植物状態(なのかな?目は開いていたような…)のように見えます。これも2シーンあったと思いますが、ローラが踊るシーンの前では、ローラは父親に繋がれたチューブか何かを抜いて病室を出ていきました。と思うんですが、それですと父親がローラのストレスの原因になってしまいますね。間違っているかも知れません。

という、とにかく私はこういう上から目線の映画は嫌いなんですが(笑)、ただ、ときどき入る建物(病院かな?)を外から撮ったカットとか結構いいシーンも多く、また音楽の使い方もいいですし、個人的には他の方のシナリオでドラマを撮ってみればと思います。ドラマ向きの監督だと思います。

アディナ・ピンティリエ監督、1980年、ルーマニア、ブカレスト生まれの40歳くらいの監督でこの映画が初の長編です。

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  • 発売日: 2008/09/10
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