2人のローマ教皇

二人の教皇が互いに赦しを請い、そして与える

Netflix オリジナルの映画はネット配信の1週間前にイオンシネマで劇場公開するパターン(契約?)が定着しているようです。この映画もそうで、ネット配信は12月20日からされており、その1週間前からイオンシネマで公開されていました。

このパターンはこれまで数本見に行っていますが、そのどれも客の入りはあまりよくありません。ということは収益が目的ではないでしょうし、日本での劇場公開がアカデミー賞やカンヌなど映画祭への出品条件になることはないと思いますので何が目的なんでしょう。

2人のローマ教皇

2人のローマ教皇 / 監督:フェルナンド・メイレレス

あらら、Netflix へ行ってみましたら、1ヶ月の無料体験がなくなっています。それに、Netflix って、何が見られるのか一切表に出さないんですね。手を抜いているわけではないでしょうから戦略なんでしょう。

で、「2人のローマ教皇」ですが、先日来日されたフランシスコ教皇とその先代のベネディクト16世の代替わりにまつわるドラマです。伝記的ではありますが、基本的な時系列以外はすべて創作だと思います。

二人を演じる俳優がアンソニー・ホプキンスさんとジョナサン・プライスさんですので重厚な会話劇を期待していたのですが、意外にも割と軽いもので、二人の会話シーン自体も思ったほど多くなく、回想シーンや説明的なシーンを使い主にフランシスコ(ジョナサン・プライス)の過去を描いていました。

2005年のヨハネ・パウロ2世の死去に伴って行われたコンクラーヴェ(教皇選挙)あたりから始まります。

実際にはこの時点でそうした明確な二人の対立があったわけではないのでしょうが、映画ですので、保守派のベネディクト16世(アンソニー・ホプキンス)と改革派のフランシスコの争いとして描かれています。

冒頭、教皇となった(時間軸で言えば映画の現在)フランシスコが自ら電話で飛行機の予約をするシーンがあり、続いて2005年にさかのぼり、アルゼンチンの(どちらかというと)貧しい地域で説教するシーンが入ります。フランシスコ教皇がいわゆる庶民派であり非権威主義的であることを見せています。

映画のメッセージもこの点にあるということです。

なお、名前はすべて教皇名で書いていますが、当然教皇になる前は本名など他の名前、ラッツィンガーとかベルゴリオとか(違う呼び方もあったような…)、枢機卿などの役職名で呼ばれています。

2005年のコンクラーヴェです。白い煙が上がれば新教皇誕生、黒い煙が上がればいまだ決まらずというあれです。ベネディクト16世は2日目で白い煙が上がったようです。

そして映画は一気に2013年に飛びます。

フランシスコは枢機卿の辞職を決断し辞職願を持ってバチカンへ向かいます。映画は辞職の理由を語ってはいませんし、おそらく映画の創作なんでしょう。一方のベネディクト16世もフランシスコとの対話を求めバチカンへ呼び寄せます。

このどちらの意思によるともはっきりしない会談の実現は、映画の後半になりますと、ベネディクト16世が教皇辞任の意思をフランシスコに語ることになっていくわけですが、その中にこの偶然こそが神の意志、つまりフランシスコが次の教皇に就任することを神が望んでいるという、相当に映画的なドラマになっています。

もちろん、すべて後付の創作でしょう。

この二人の対話は、すでに書きましたようにかなり軽めのもので、神学論争的なものや教皇庁の改革などの硬派な話はなく、どちらかといいますと、二人の人間的な側面、特にフランシスコの庶民的な振る舞いが強調されたものになっています。

たとえば、バチカンの庭師に気さくに話しかけ、バチカンを去るときにオレガノの苗木をもらったり、街なかでピザやコーヒーを食べたり、それが美味しかったからといってバチカンに取り寄せて二人で食べたり、サッカー好きらしくテレビで試合を応援したり、アバが好きというようなことも言っており、映画の中でダンシング・クイーンが流れていました。

一方のベネディクト16世はクラシック好きの設定となっており、自らピアノを弾くシーンもあります。ただ、堅物的な人物にはなっていませんので、二人を対照的に描く意図はさほどないのだと思います。

二人の対話の中で大きく扱われているのは、お互いに過去の行いへの罪悪感を語り(告解)、お互いに神の代理として赦しを与えるという行為です。

フランシスコの場合は、「汚い戦争」と呼ばれている1976年頃からのビデラ独裁政権への協力的な姿勢であり、ウィキペディアによりますと実際にそういう非難もあるようです。回想シーンや実写フィルム(多分)を使ってかなり大きく扱われていました。

ベネディクト16世の方は、今世紀に入って明らかになってきたカトリック聖職者による若年神学生などへの性的虐待事件に対する対応の過ち…、なんだろうとは思いますが、なぜかこのシーンはフェードアウトになっており、これが意図的にされたことなのか、権威に対する忖度なのか、かなり違和感を感じさせるシーンでした。

とにかく、というわけで、お互いに神の赦しを得てすっきり(?)、2013年、ベネディクト16世は辞任を表明し、フランシスコがコンクラーヴェで266代のローマ教皇に選ばれます。

なかなか深くは突っ込めない対象なんでしょう。映画とは言え、かなり甘い描き方ではあります。

ラストはどういう経緯だったかは忘れましたが、二人がドイツ対アルゼンチンのサッカーを見るシーンで印象的に終えています。あれはドイツが優勝した2014年のワールドカップの決勝戦ですね。二人とも自国の応援に一喜一憂してはしゃいでいました。

映画的にはうまくまとまりましたということなんですが、現実は、オイ、オイでしょう。

監督はフェルナンド・メイレレスさん、この10年くらいの映画はプロデューサー業がほとんどのようです。「トラッシュ!この街が輝く日まで」に製作総指揮としてクレジットされています。

トラッシュ!-この街が輝く日まで- (字幕版)

トラッシュ!-この街が輝く日まで- (字幕版)

  • 発売日: 2015/06/03
  • メディア: Prime Video