アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場

無名戦士たちの終わりなき継続戦争

現在、秋篠宮が外交関係樹立100周年ということでフィンランドを訪問しています。多少なりともその話題性を集客に結びつけようとしたかどうかはわかりませんが、2017年製作のフィンランドの戦争映画が公開されています。

アンノウン・ソルジャー

アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場 / 監督:アク・ロウヒミエス

フィンランド映画といいますと、どうしてもアキ・カウリスマキ、ミキ・カウリスマキ両監督が浮かびますので、戦争映画? という気がしますが、ほとんど(まったく?)CGを使っていない戦闘シーンは結構迫力もあり、本当に、戦争は何も生み出さなく、失うものばかりということを実感する映画です。

フィンランド語で無名戦士を意味する「Tuntematon sotilas」というヴァイノ・リンナ氏の小説が原作ということです。ただ、戦争の基本的な経緯は史実にもとづいているようです。

ほとんど知らないフィンランドの歴史をウィキペディアでみてみますと、現代における国家という概念とはちょっと違いますが、長らくスウェーデンの支配下にあり、その後ロシアの支配下となっていた1917年にロシア革命の混乱に乗じて国家として独立したということのようです。

で、この映画の前段となりますが、1939年にソ連の侵略をうけて戦った「冬戦争」で国土の10分の1を失っています。

1939年といいますと、ヨーロッパで第二次大戦が始まった年です。20世紀は戦争の世紀といいますけど、本当にそうですね。第一次大戦が1914年から1918年、第二次大戦が1939年から1945年、そして東西冷戦が1989年まで続きます。

映画に話を戻しますと、1941年にドイツがソ連に侵攻し、独ソ戦が始まったことを契機に、フィンランドは冬戦争で奪われた領土奪還を目指し、再びソ連と戦争を始めます。ですので、フィンランドにとっては冬戦争と連続しているということらしく「継続戦争」と呼ぶそうです。第二次大戦という視点でみれば、ドイツとともに枢軸国側ということになりますが、フィンランド視点で言えば、対ソ連の戦争ということだと思います。

映画はこの1941年から1944年の「継続戦争」を描いています。ほぼ8割方戦闘シーンまたは戦場のシーンです。一度は奪われた土地を奪還するところまで攻め入りますが、後半はソ連に押し戻され、休戦という形でソ連戦を終えています。映画はここまでですが、その後、休戦協定にもとづいて国内のドイツ軍を排除するラップランド戦争を戦ったそうです。

ややこしいですね。詳しくはウィキペディアをどうぞ。

映画の話ではなくなってしまいましたが、そういう映画なんです。見ているだけでも(疑似)厭戦気分というやつになってきます。

爆発で人がぶっ飛んだりという派手なシーンはありません。爆発シーンは実写のようですのでリアリティはあります。人はたくさん死にます。うんざりするくらい死にます。

無名戦士といっても映画ですので何人かドラマを描かれる人物がいます。

一番目立つのはロッカ(エーロ・アホ)、階級は伍長とか出ていました。経験豊富で勇敢で、上官にもずけずけものをいう人物です。妻と子ども三人、戦争中にもう一人生まれ四人の家族を残して出征しています。冬戦争で自分の土地を奪われたから戦っていると言っていました。

最前線で突撃し、敵が機関銃を連射してくる塹壕に手榴弾を投げ込み進撃したりと、(味方にしてみれば)英雄的活躍をします。え? それでも死なないの? というところもありますが、まあ、映画的には許容範囲でしょう。

そうした活躍もあり、二度ほど休暇をもらい、家に帰るシーンがあります。夫婦でサウナに入っていました。

後半、ソ連に押し込まれた時には、妻と子どもたちが家を捨て移動するシーンがありましたので、終戦時には、開戦時よりもさらに領土を失ったということでしょう。

指揮官のカリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)、かなり若くエリート士官のようです。最初の方にヘルシンキの教会(違うかも?)の前でしたか、婚約者に別れを告げるシーンがあります。

戦場では目立ったシーンはありませんが、休暇中に婚約者と結婚します。

後半の、上官の命令ゆえのかなり無謀な戦闘で亡くなります。

休戦後、妻が大きくなったお腹を抱えてたたずむ姿があります。

他には…、公式サイトに人物図がありました。

コスケラも結構目立つ人物でしたが、ドラマとしてのエピソードはなかったと思います。カリルオトとコスケラは別の小隊だったんですね。見ていて気になるほどではありませんが、指揮系統はよくわかりませんでした。

よくわからないシーンがありました。

ペトロザボーツクという街だったと思いますが、フィンランド軍が、ロシア領となっていた街を制圧したシーンで、ロッカとヒエタネンとヴァンハラ(違っているかも?)がロシア人の家を訪ねます。そもそもこの訪問の意味がわからなかったのですが、その家には女性と子供だけしかおらず、その女性は教師と言っており、とても気高く気丈な人物で、フィンランド人たちが、あれはからかいなんでしょうね、カリンカを囃し立てるように歌うわけです。それに対しその女性は、それに合わせて挑戦的に踊るのです。さらに不思議なことに、ヒエタネンでしょうか、ひとりとキスをしたりします。

そしてその夜、ヒエタネンがあらためてその家を訪ね、ふたりはからだを重ねるのです。

後日、ヒエタネンがその家を訪ねますが、もう誰もいなくなっています。

というような個人のエピソードを入れながら、戦闘シーンが続きます。

戦争は退却のほうが難しいといいますが、まさにその通りで、映画では戦術上だけではなく、さがるな!さがるな!と叫ぶだけの無知無謀な上官がいて犠牲がひろがります。

その上官、上の図のランミオでしょうか、結局、ドイツ軍の銃弾に倒れてしまいます。

ラストは、負傷したロッカですが無事家族のもとに戻る姿で終わります。

フィンランド(人)にしてみればまた違った思いのある戦争なんでしょうが、国対国の戦争に命をかける意味などなく、何も得るものなどなく、とにかく戦争は失うものばかりだなあと思い知らされる映画です。

Unknown Soldier

Unknown Soldier

  • 作者: Vaeinoe Linna,Aku Louhimies,Jari Olavi Rantala,Benjamin Mercer,Lasse Enersen,Kaarina Gould,Miia Haavisto,Tommi Kangasmaa,Júlíus Kemp,Daniel Kuitunen,Ari Lahti,Liisa Penttilae,Ilkka Perheentupa,Mika Orasmaa
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