WALK UP

ホン・サンス監督の自己愛妄想映画…

もういいかなと思っていたホン・サンス監督、また見てしまいました(笑)。

WALK UP / 監督:ホン・サンス

男の甘え…

ホン・サンス監督の映画は2004年の「女は男の未来だ」を見てかなりインパクトを感じ、それ以降、結構見ている監督です。ただ、むちゃくちゃ多作の監督ですのでそれでも1/3くらいじゃないかと思います。

当時は女性の圧倒的な強さを感じたんですが、今から思えば思い違いだったかも知れません。ホン・サンス監督の映画は一貫して「男の甘え」の映画です。多くの場合、その甘えを受ける女性がまったく動じなかったり、今回の「WALK UP」のようにその後を描きませんので、仮に女性の側が悲しみを抱えていたとしても映画は男のニヤケ顔で終えてしまうために、それに気づかないということだと思います。

映画祭での受賞歴は結構すごくて、批評家からの評価が高い監督です。

映画のつくりが独特で、まったくブレずに自分のスタイルを守り続けていることはすごいことだと思いますが、やはり、この映画を見ても、もういいんじゃないと思ってしまいます。

それに、批評家からの評価が高いのはそれだけ批評家に男性が多いことを示しているだけじゃないかとも思います。

ホン・サンス監督の自己愛映画…

すごいなあと思うのは俳優たちです。これだけのセリフ劇なのにほぼワンシーンワンカットです。シナリオがどうなっているのか知りたいですね。台詞にはアドリブ感はまったくないのですがどうなんでしょう。

映画監督のビョンス(クォン・ヘヒョ)が娘ジョンス(パク・ミソ)を連れてインテリアデザイナーの友人ヘオク(イ・ヘヨン)を訪ねます。そこはヘオクが所有する建物で、地下を自分の仕事場とし、1階をレストラン、2階を料理教室(プライベートレストランのようなことを言っていたと思うけど…)、3階を住宅、そして4階を画家に貸しています。

ヘオクを訪ねた理由は娘のジョンスがインテリアを勉強したいから紹介してほしいと言ったからのようです。ただ、ビョンスとジョンスは、ビョンスが離婚しているのか別居のままなのかはわかりませんが、10年くらい前から一緒には暮らしておらず、また会うのも5年ぶりと言っています。

という設定で、例によってホン・サンス監督の独特の会話劇が始まります。ここ何年か前からホン・サンス監督は人物をテーブルに向かい合って座らせて、それを正面からフィックスで撮ったまま延々と会話させるという手法を好んでいるようで、この映画でもその手法を使っています。

また、必ずお酒を飲みながらになりますし、タバコを使うことも多いです。さすがに室内での喫煙シーンはなくなっています。規制でも気にしているんでしょうか(笑)。

ビョンスは映画監督という設定です。ただ、進行中の企画がポシャったとか、2年間撮っていないとか言っています。ホン・サンス監督の映画は男が主人公の映画がほとんどだと思いますが、映画監督という設定がとても多いですし、それに今回のようにうまくいっていない場合が多いです。監督自身のなにかの思いの反映なんでしょうか。

それにこれも特徴的なんですが、登場する女性たちは皆その監督が好きです(笑)。

儚い夢か、パラレルワールドかと言われても…

この映画でもそうです。

まず、ヘオクもビョンスが好きです。もちろんその好きがどういう好きなのかはわかりませんが好意を持っているという描き方です。ヘオクはビョンスにここに住んでくれれば家賃は半額でいいとか、ただでいいとか言ったりします。

男女関係のパターンとして、女性たちは主人公の男性に好意を持っていることが意識されており、それに対して男性のほうはまんざらでもない以上の描き方はしないホン・サンス監督です。

で、この映画ではちょっと変わったことをしており、まずひとつ目のパートでは、ビョンスとジョンスと、そしてヘオクの三人の会話劇が1階のレストランであり、途中でビョンスに電話が入って出かけていきます。しばらくジョンスとヘオク二人の会話があり、ビョンスの内の顔(がわかるほどジョンスはビョンスと一緒に暮らしていないと思うけど…)と外の顔の話があり、ジョンスがお酒を買いに出かけます。

次のパートは、え? どういうこと? と思う展開がされており、後日(ジョンスがヘオクのもとで働き何ヶ月後かに辞めた後とか言っていた…)、ビョンス一人でヘオクを訪ね、あれは2階なのか、2階を借りているソニ(ソン・ソンミ)が加わります。そして同じようにお酒を飲みながらの会話があり、やはりソニはビョンスが好きです(笑)。

で、この間になにかシーンが入っていたかどうか記憶はありませんが、次はビョンスとソニが一緒に暮らしているシーンになります。あれは3階でビョンスが借りたということなのかな。しばらく会話があり、ソニが出掛けていきます。理由は何だったか忘れました。

そして、さらに混乱させるように次のパートは、いきなりジョン(チョ・ユニ)を登場させて、4階のバルコニーで、これまた同じようにお酒にタバコで会話シーンです。

4階は画家のアトリエのようなことを言っていましたので、ジョンがその画家? とか思いましたが、その時、ヘオクが4階に来て、ジョンが訪ねてきていますねとか言っていましたのでよくわかりません。

ということでどういうこと? なんて思っていますと、それもそのはず、映画はひとつ目のパートに戻って終わります。

で、儚い夢か、パラレルワールか、と言われてもと思う映画です。

ビョンス、つまりはホン・サンス監督の自己愛妄想の映画ということでしょう。