わたしの見ている世界が全て

見えないなにかが見えてくる…

見ようと思ったきっかけは佐近圭太郎監督のキャリアに「わたしは光をにぎっている」の脚本とあったことと、監督補佐ってなんやねんとは思いながらも「静かな雨」にクレジットされていたことからです。

わたしの見ている世界が全て / 監督:佐近圭太郎

見えないなにかが見えてくる…

台詞でもない、画でもない、見えない何か、明らかにされない何かを撮るのがうまいです。人物の心の中、と言いますか、考えていることや思いみたいなものでしょう。それがなんとなく見えてきます。

かなり意識して説明的な台詞やシーンを避けていると思われます。それでも伝えられるという自信が映画から感じられます。元来、邦画ってこういう映画を得意とする監督が多かった(それほど見ていないけど…)ように思いますが、最近はなかなかそうした映画に当たりません。左近圭太郎監督の名前は記憶しておこうと思います。

設定もうまいです。兄弟姉妹四人の話ですのでストレートな言葉に違和感がありません。多くの場合、ストレートな言葉の裏には何かがあります(笑)。

ネオリベ遥風

ネオリベ志向の次女遥風(森田想)はメンタルヘルス・コンサルティング(多分…)のベンチャーのバリバリのやり手でナンバー2の立場です。効率優先で部下に対しても個々の事情など顧みることがありません。その遥風に対して企業のトップからパワハラの告発があるとの指摘があります。遥風はあっさり退職を申し出て自ら起業する道を選びます。

同じ頃、母親が亡くなります。実家は東京郊外(だと思う…)のなんでも屋とうどん屋を併設するフードセンター日吉です。実家には長男の啓介(熊野善啓)、長女の美和子(中村映里子)、次男の択示(中崎敏)が暮らしています。

啓介はフードセンターを継いでいます。近くの年の離れた農家の娘、明日香(堀春菜)とつきあっています。美和子は離婚して実家に戻り、今は実質的に店を切り盛りしています。高校生くらいの娘が夫のもとで暮らしていることが後半にわかります。択示は大学をでて数年のぷうたろうです。

という設定で、即行動タイプの遥風は起業のための資金のこともあり、フードセンターを売ろうと持ちかけ、何事にも煮えきらない3人に対してそれぞれが抱える問題を引っ掻き回していくという話です。

あっ、あぶない…

まず、長男の啓介はフードセンターを続けると言っています。ただ、付き合っている明日香と結婚するためには農業の跡も継がなくてはいけません。遥風から見れば決めきれない啓介は優柔不断にみえます。遥風は啓介を連れて挨拶にいったりと行動を起こします。詳細は語られませんが啓介が振られます。

啓介のその後は後回しにして長女の美和子です。美和子には離婚のせいか、人生に疲れた風情があります。近くのリサイクルショップの店主、司(松浦 祐也)とつきあっています。司にうちに来ないかと誘われて肯いたりしますが、なにか踏ん切りがつかない様子です。ここでも遥風は行動を起こし、司にプロポーズさせます。しかし、その直接的な行為が返って美和子を硬化させてしまいます。

遥風は、美和子の迷いは娘にあると考え、娘に連絡をとり呼び寄せます。突然現れた娘に驚く美和子です。焼きうどんを食べながら(笑)向かい合うふたり、しかし、ここでも何もはっきりしたことは語られないまま、母娘は別れ、それでも、その後の遥風とのシーンでも美和子は怒るわけでもなく、何かが吹っ切れた(かな…)様子です。この後のシーンはなかったと思いますので司と一緒に暮らすことにしたのでしょう。

次男の択示は、遥風からしきりに自立しろと言われ、ネットオークションで稼ごうとします。司のやっているリサイクルショップからジャンク品を買い、ネットオークションで数万円稼ぐ程度にはなっていきます。さらに稼ごうと、せどりコンサルの勧誘に引っかかり30万円を支払ってしまいます。しかし、何の内容もないとわかり取り返しに行きますが返り討ち(?)にあいます。それを知った啓介が怒り、皆で乗り込み、あれこれあり、30万円は取り戻しますが、今度は逆に託児が逆ギレ気味にコンサルに30万円を叩きつけます。その後託児のシーンもなかったと思いますので精神的に自立したということなんでしょう。

で、啓介が振られたその後です。

遥風は明日香のもとに向かいます。明日香にあなたが嫌いと言われながらもメンタルの強い遥風は怯みません。そのうち、明日香の畑仕事を手伝うことになり、明日香もやさしく教えるシーンが続きます。半日とか一日手伝っていたような流れになっています。

あっ、あぶない…、と思いました(笑)。まさか、これで遥風が改心し、自分がフードセンターを継ぐとか言い出すんじゃないよね…。

きわどい結末は…

さすがにそこまではいきませんでしたが、でも方向性はそういう結末でしょう。

畑仕事のシーンは遥風が倒れるということで決着をつけていました。さらに、遥風本人にも迷いが生まれる問題が発生します。起業は自分と同じ志向を持つ部下を引き抜いて始める予定でしたが、ある時、その部下と連絡が取れなくなってしまいます。これも詳細はわかりませんが心を病んでしまったということでしょう。遥風は多少弱気になったのか、優しい言葉でメッセージを残しますが連絡はありません。家を訪ねても出てきません。

そして、ラスト、すっかり片付けられ閑散としたフードセンター日吉、ひとり遥風がいます。近所の女性がいつものお兄ちゃんは?とやってきます。もうやめたんですと答える遥風、去っていく女性を追いかけ、あの…と声をかけながら、その後の言葉が出てこない遥風です。

結局、こういう結末しかない物語ではありました。ベタの寸止めという結末です。

わたしの見ている世界が全て

俳優がみなうまいですし、監督の意図を理解しているようですので見ごたえはあります。それぞれのシーンに深みがありますし、編集もうまいですので飽きません。ただ、あらためて思い返してみますと、プロットはかなり詰め込まれていてやや過剰気味なのにそれに対するフォローが足りないことからのバランスの悪さが感じられます。

公式サイトの佐近監督のコメントを読んでみましたら、かなり強い言い回しでこの映画に対する思いを語っていて驚きます。やけに直接的なタイトルだなあと思っていたんですがそういうことなんですね。遥風にわからせたかったということのようです。

んー、ちょっと気になるコメントではあります。