そんなには褒めないよ。映画評

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わたしは光をにぎっている

(ネタバレ)翔ばなくてもいい時代の青春ファンタジー

2019/11/15

中川龍太郎監督、かなり注目している監督です。

一年ほど前に見た「四月の永い夢」がとてもいい映画であり、その名前になんとなく記憶がありましたので過去記事を検索しましたら、その三年ほど前に「愛の小さな歴史」を見ていたという、そんな始まりです。

わたしは光をにぎっている

わたしは光をにぎっている / 監督:中川龍太郎

映画としてすごく洗練されてきています。説明的な余計なシーンがありません。シーンの間合いも長くゆったりしています。

タイトルも興味をもたせます。明治大正期の詩人 山本暮鳥 の『梢の巣にて』という詩集の中の『自分は光をにぎつてゐる』からとられているようです。

梢の巣にて – 国立国会図書館デジタルコレクション

このシーン、澪(松本穂香)が自分で沸かした銭湯のお湯をすくい取って見つめるシーンなんですが、ここに「わたしは光をにぎっている…」と詩の朗読が入ります。なぜか涙がこぼれてしまいました。すっと出てきた手に妙な緊張感が感じられ、それが影響したのかも知れません(笑)。

この澪、全編通してほとんど喋りませんし、特に始まってしばらくは何を考えているのかわからない人物ですので、このまったく映画的ではない人物で大丈夫か?と心配になったくらいなんですが、なんと不思議なことに、最後までそのままの人物のままで(笑)、それでいて映画をもたせていました。

よくこの人物像を軸にして映画にしようとしたと思いますし、松本穂香さん、よく演じきっていたと思います。中川監督、女性を撮るのがうまいということかも知れませんね。「四月の永い夢」の朝倉あきさんもとても良かったです。

映画は、その澪のちょっとだけの成長記であり、消えてゆくものへの鎮魂歌です。

説明的なシーンや台詞がありませんのでよくわかりませんが、澪は両親を亡くしており、民宿をやっている祖母と叔母と暮らしていましたが、祖母が入院することを機に、知人を頼って東京へ出ることにします。場所の設定もわかりませんが、エンドロールに野尻湖の名が出ていましたのでロケ地は野尻湖でしょう。

東京はスカイツリーが見えるカットを入れていましたので下町でしょう。澪が、駅の前でスマホを見ながら行き先に迷い、チラシを配っていたエチオピア人に尋ねますと、そのエチオピア人が案内してくれます。昭和のかおり漂う街、呑んべ横丁の看板に縄のれんの飲み屋街を抜けて、目的の銭湯です。

ナビを使えば?(突っ込みどころじゃないけど)というのは置いておいて、思い返してみれば、澪のスマホを見つめたままどんどん歩いていくエチオピア人、数歩離れてその後をついていく澪、まったく台詞なしのこのシーンでこれから始まる物語のロケーションや澪のキャラをうまく見せていたように思います。

銭湯はかなり古びており、薪で沸かしていました。主は京介(光石研)、ひとりでやっています。後半に、澪が手に撮った写真に息子?が写っていたように見えましたし、それを見て京介が泣いていましたので亡くしているということでしょう。澪はここに居候して仕事を探すようです。

ということで、澪が慣れない都会で成長していく映画になるんだろうと予想させますし、確かにそうなんですが、とにかく澪はほとんど喋りません。台詞を与えられていません。

その代わり、周りの人物がいろいろ(映画的に)頑張っています。

京介はぶっきらぼうですが心の奥底に人生の淀みを感じさせます。銭湯の常連の銀次(渡辺大知)は映画青年、街のミニシアターで寝泊まりし、街の人々や佇まいをドキュメンタリーで撮っています。美琴(徳永えり)はよくわかりません(笑)。中華料理屋の稔仁と付き合っているのかな(?)、でも、よくわからないクリスチャンの元カレとも付き合っているようにもみえ、稔仁は稔仁で北海道へ帰って独立しようとしているようでもあります。

そんなこんなで澪の周りにはいろんな人がいます。他にも街の八百屋や居酒屋やいろんな店の人々、銭湯にやってくる人々、例のエチオピア料理の店に集うエチオピア人たち、そんな人たちとつかず離れずの関係は(現実は違うと思うけど)とても心地よい感じです。

澪はスーパーでのアルバイトを始めます。しかし、臨機応変な対応ができずやめさせられます(やめます?)。祖母の言葉、「やりたいことをやるのではなく、やれることからやるのよ(ちょっと適当)」で、京介の銭湯を自分から手伝うようになり、京介もそれを受け入れいろいろ教えたりします。そうやって街にも、そこで暮らす人たちにも少しずつ馴染んでいきます。

時代の波なのか、悪政なのか(涙)、その街にも再開発の計画が進んでいます。

よくわかりませんでしたが、立ち退きの通知でも受け取ったのでしょう、ある日、京介は銭湯を休みにして出かけると言います。澪は自分がやるので開けさせてくれと言います。そして、ひとりで清掃をし、薪をくべお湯を沸かし、そして湯船のお湯に手を入れるシーン、それが、私が涙したシーンです(笑)。

おそらく、いいことなのかよくないことなのか誰にもわからないことなんでしょう、古きものは消え去り、新しきものが生まれる、澪が馴染み始めた街も消え去っていきます。

最後の日、澪は銭湯で大感謝祭を企画します。銀次の撮っているドキュメンタリーの上映会です。この一連も過剰にドラマっぽくすることなく淡々と描いていきます。

そして一年後、このシーンは正直なところかなり微妙だと感じましたが、京介が求人誌で仕事を探しているようです。ふと目がとまります。京介がやってきた先は銭湯です。のれんをくぐり入りますと、番台には澪が座っています。

自分の居場所を見つけることはとても難しいことでもあり、また割と簡単でもあるということなのでしょう。

公式サイトに、監督自身がこの映画を「翔べない時代の魔女の宅急便」と語っているとの記述がありますが、「魔女の宅急便」を知らない私にも何となくわかる気がします。ただ、何がいいか悪いかではない意味で言えば、「翔べない」のではなく「翔ばない」だけで、また今は「翔ばなくてもいい」時代だということだとは思います。

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