不思議な映画でした。
ガエルくんの映画かと思って観ていたら、見終わってみると、元妻ソフィア(アナリア・コウセイロ)がほとんどの物語を展開させていき、ガエルくん演じるリミニは、ただただソフィアの圧倒的な思いに翻弄され、過去へ過去へと引き戻されていくという、邦題よりも原題の「EL PASADO(THE PAST)」そのものの映画でした。
翻訳家のリミニが味わう人生の流転(?)は、並べてみると何とも凄まじいもので、離婚、新しい出会い、女の死、再び新しい出会い、子供の誕生、元妻による子供の誘拐と女の別れ(女からの拒絶)、孤独と生活の崩壊、元妻との再出発、そして、その間に翻訳家としては致命的な言葉の記憶の喪失が進行していくという、言葉にしてみると、あまりにドラマチックで、こんな映画見たくないと思わず叫んでしまいそうです。
ところが、監督がすごいのか、あるいはラテン系(アルゼンチン)文化のなせる技か、はたまたガエルくんが全く演技をしないせいか(笑)、全然そんな感じはしないんですね。実にすっきり爽やか(大笑)に進んでいきます。
要は、元妻ソフィアが、離婚後も執拗にリミニにつきまとい、意図があるのかどうかは定かではありませんが、リミニの新しい出会いをぶち壊していくという物語です。そして、これまたよく分からない不思議な展開ですが、ソフィアは、女の元を去った男を再び元に戻す女達の集団を主宰している(のかな?)という、いわゆる女の執念は怖いといったことをやっているのかというとそうでもない、とにかく不思議な映画でした。
でも、面白かったです。やっぱり、監督の手腕ですね。
展開の速さは凄いです。男と女、余計なものはいらない、出会って惹かれ合ったら、即セックス、そして一緒に暮らす、てな感じですね。
編集も凄いです。一緒に暮らしていて、いきなりお腹の大きな女のカット、ん?と思っていたら、次は出産シーンとなりますし、子供がソフィアに連れ去られてしまったと思ったら、何と次は、女の弁護士から、女と子供に近寄らないとの誓約書(?)にサインを求められるシーンといった具合で、その鮮やかさといったら、驚嘆ものです。
でも、全然抵抗なく、ホントにすっきり観られました。ラストシーンを除いて…。
ソフィアが、離婚後に、互いの写真を分け合うことにしきりにこだわっており、ラスト近くで、リミニがその分類をするのですが、自分の子供の写真もその中にあり、それをポケットに入れ、意味ありげにソフィアを見て、部屋を出て行くシーンで終わるのですが、あれは、いったい何?
もう一度観ないと分からない。でも、まあいいか…。