冷たい熱帯魚

で園子温は溺れたか?

冷たい熱帯魚

冷たい熱帯魚

予想通り、かなりのインパクトでした。どこでも語られていることですが、特にでんでんの演技は相当なもんです。怪演(これは造語?)という言葉がありますが、まさにその言葉がピッタリです。

人の良さと愛嬌を振りまく「善」の面から、ドスのきいた声で凄み、相手を威圧する「悪」への変化など、実に見事なもので、これだけのリアリティをもってこの役をこなせるのはそうはいないでしょう。

得てして、その嘘っぽさだけが際立ちやすい人体○○のグロい場面も、でんでん演じる村田の存在感で、全く浮くことなく、相当なリアリティで迫ってきます。不思議なもので、これだけグロい場面も、気持ち悪くなるどころか、ある種爽快(ではないですね…)というか、自然に受け入れられてしまいます(私だけか?)。

でんでんにやや押されてしまいましたが、主役(かな?)の社本を演じる吹越満もかなりいいです。後半、一気に「悪」が吹き出す場面は、すっーと血の気が引く思いがします。溢れ出すマグマのように突っ走るその後も、村田とは異なる、人に潜む暴力性がうまく出ていました。


『冷たい熱帯魚』 予告編

この男性2人に比べて、女性3人の方がもうひとつはっきりしません。黒沢あすか(村田の妻)はともかく、神楽坂恵(社本の妻)と梶原ひかり(社本の娘)は、夫であり、父である社本をどう見ているのか、今の自分をどう感じ、どうしたいのかがはっきり見えてきません。それが、引いては、この映画のひとつのテーマであり、園監督のこだわりでもある(だろう)「家族」そのものが見えてこず、ただエログロ面だけが目立つ結果になっています。

ただ、これは、俳優の問題というよりは、園監督自身の問題でしょう。

そもそも、社本熱帯魚店を取り仕切っているようにも見える妙子(神楽坂)は、不釣り合いとも見える超ミニで登場し、その巨乳を意識的に見せるためのカットを入れられ、娘の万引きの件で村田の店に行く際も、それじゃチーママでしょみたいな衣装を着せられ、レイプシーンでも、自ら望んでいるような演技をさせられ、まあ、これじゃ、どういう女を演じればいいのって、私なら言いたくなってしまいます。

いずれにしても、妙子と愛子(黒沢)の二人は、なぜかは分かりませんが(笑)、監督からエロさを求められており、愛子の方はキャラとうまく結びつきますが、妙子の方は俳優としてはきついでしょう。私には、なぜ妙子にエロさが必要なのか分かりません(笑)。

娘の美津子(梶原)については、初対面のオヤジである村田に対して、なぜあんなに無警戒な笑顔をでもって相対せられるのか、妙子や父親への屈折した感情はないのだろうかなど、力量不足も感じられますが、それよりも何よりも、ラストシーンでのセリフが彼女の立ち位置、引いてはこの映画そのものを分かりにくくしています。

(以下完全ネタバレです)

いろいろあって(いろいろありすぎですが…)、社本は、村田と愛子を殺害し、さらに妙子も刺し、美津子へもその凶器を向け、やや傷つける程度に刺し、不正確ではありますが、
「イタイだろ! イタイんだよ! 生きるってことはイタイってことなんだよ!」
なんて(ここ結構笑えますが)、大見得を切りつつ、自ら喉を切り裂きます。美津子は、倒れ込んだ社本に近づき、
「くそジジイ! せいせいした!」なんて、これまた台詞は不正確ですが、こんなことを言い、さらに2度、3度と足蹴にします。

くそオヤジじゃなく、くそジジイ、うーん、聞き違いじゃないとは思いますが…。まあ、それは本題ではないので置くとして、この台詞が映画を分からなくしています。というより、考えオチを狙いすぎているというか、最後まで意表をついてやるってことなのか、ややあざとさを感じさせます。

もちろん、ここで倒れた父親にすがりついて泣く(これが最も意表を突いているのですが)なんてことを期待しているわけではありませんが、この台詞を言わせるのであれば、もっと美津子をきちんと描き、台詞に奥行きを持たせないと、「何言っての、こいつ!」って感じで、結局エログロな映画で終わってしまいます。というより、終わってしまいました。

もうひとつ、ん?と首をひねるシーンがありました。村田が社本にボールペン(鉛筆?)で刺され、息絶え絶えに「許して…、ごめんなさい…」などと、死を間近にしてありがちな(ホントに?)幼児化現象で、父親か母親かに許しを請うシーンがあります。

結局、村田の暴力性を「虐待が生む暴力の連鎖」ってとこに持ってく?

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