ちょっとばかりやり過ぎですよ、トーマス!と言いたいですね。いくらミステリアスさや重厚さの演出だとしても、スクリーンを眺めつつ物語として再構築できないほどに時間や場所をシャッフルして編集してしまっては、次々に切り替わるシーンの関連づけに四苦八苦させられ、犯人(二重スパイ)探しがおろそかになる本末転倒の謎解き映画になってしまいます。
物語を正しく理解することに躍起になれば、かなりストレスがたまるでしょう。特に、字幕を読みながらでは、誰が誰なのか、今がいつなのか混乱すること必至です。公式サイトに「必読」という、この程度は事前に知っておかないと分かりませんよと警告があるくらい分かりにくいわけで、配給サイドは「二度見」をかなり煽っています。
結局のところ、私は途中で諦めました。なぜなら、物語を完璧に理解していなくても、それなりに見られます。それぞれのシーンは映像的にとても美しいですし、シャッフル編集と言えども不思議とスムーズに流れていきます。横移動を多用したカメラワークが、入り組んだ人間関係や時間軸の中をゆったり漂うような感覚にさせてくれます。ぼぉーと見ていても楽しめないわけではありません。
そう考えていきますと、この映画、謎解きがテーマではないのかもしれません。M16の幹部4人ティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマンのうち、誰がKGBの二重スパイかをスマイリー(ゲイリー・オールドマン)が調査していくことが軸になっていますが、考えてみれば、その4人の描写なんてほとんどありませんし、一体誰が?!といった緊迫感を演出するようなシーンも全くありません(だったと思います)。じゃ、128分、いったい何が映し出されていたのでしょう? よく分かりません(笑)。まあ、「ぼくのエリ 200歳の少女」と同様に不思議な映画ですね。その気になれば、どんな監督だって、スパイ映画らしく、もっとうまく緊迫感を出すことは出来るでしょうから、あえてそれをやっていないと考えるべきかも知れません。
美しきシャッフル編集とたゆたう横移動カメラによって醸し出される不思議な浮遊感を堪能する映画ってことでしょうか(ホントか?)…。
まあそれはともかく、DVDが出れば、止めて、巻き戻して、このカットとここが続いているのかなどと、あらためて楽しんでみようかと思います。これまた、前作の「ぼくのエリ 200歳の少女」と同じように…。