公式サイトによると「監督・脚本・撮影・編集・音楽・プロデュース」を、もちろんひとりでいうことではないでしょうが、自分でやっているらしいです。
であるなら、もっとインパクトのある映画になってもよさそうなものですが、根がスタイリスト(死語?)なのか、全てがほどほどで突き抜けて来るところがありません。まあ、それが岩井ワールドなのかも知れませんが…。
「映画的」ではないと書いたものの「映画的とは何か」に答えられるほど映画を知っているわけでもなく、つい思いつきで書いてしまったようなものですが、それにしても、この映画には、見る者の「意識の連続性」へのそれこそ意識が随分欠如しているように感じます。
まあ要は他者の視点が欠けていると感じるいうことなんですが、映画であれ、演劇であれ、見られることを前提としている創作物は、共同作業という何ともまどろっこしい過程を経ることでそれが担保されているように思います。それをひとりでやろうとする場合はやはりそれなりのリスクが伴いますが、それでもなかには全て一人で創ってもとんでもない作品も生まれたりしますから、全く否定するわけでもないのですが、少なくともこの作品はマイナス面の方が目立ちます。
まず、脚本が練られていない感じがします。自殺願望とヴァンパイアを結びつけたところは結構面白いとは思いますが、何人も登場する自殺願望の若者たちがいかにも薄っぺらいですし、もう一方のヴァンパイアにしても、何ともよく分からない存在で、飲んだ血を吐いたりするわけですから本当にヴァンパイアであるかどうかも定かでなく、キャラクター設定が曖昧すぎます。アルツハイマーという母親の存在もいまいち生きていませんし、蒼井優演じるミナなんて、いてもいなくてもいいような位置づけですし、結構重要な役回りの警官の妹ローラに至っては、異常なほどストーカー行為に及ぶという相当に違和感のある人物になっています。
撮影と編集にはやはり他者の目を入れるべきでしょう。釣りに行く場面だった思いますが、いきなり画面が横になってしまいます。本人が「縦の方がきれいな画角ってあるんですけど、映画では全部横にしなきゃいけない。それがストレスで。」なんて語っていますが、あれって本当にきれいですか? それと、canonの何とかいうスチルカメラで撮っているらしく、そのせいかかなり広角でぼんやりした映像になっているのですが、それをうまく生かし切れているかどうかちょっとばかり疑問に思います。さらに、編集については、私にはリズムが感じられませんでしたし、シーン毎がぶつ切れで退屈でした。
と書いてみて、とんでもなくひどい映画のように書いてしまいましたが、そのつもりで書き始めたわけでもなく、「ああ、岩井俊二だなあ」と単純に思って見ていただけで、眠ることもなく2時間を楽しんできました。