魅力は、描かれる人物が決して人に媚びないこと。そしてまた、映画的にも。
ジャック・オディアール監督の魅力をひとことで言うと、描かれる人物が決して人に媚びないことではないかと思います。そしてまた、映画的にも。
しかしながら、この邦題は明らかに媚びています(笑)。
原題は、「De rouille et d’os」(Rust and bone/錆と骨の味)。アリ(マティアス・スーナールツ)が金を稼ぐためにやるボクシング、というより金を賭けた殴り合いなんですが、そこで流す血の味ということなのでしょう。「君と歩く」ということではなく、そういうことです、この映画は。
アリは、がたいもでかく相当タフで恐れも知らないような男ですが、それでも素手でがちに殴り合うとなると恐怖心も並大抵ではありません。それを振り払うために自らの体を傷つけるように頭を車にぶつけるシーンが幾度もありますが、その時のステファニー(マリオン・コティヤール)の無表情さがとてもいいです。
そしてまた、逆に、両足を失ったステファニーに対するアリの無神経さ(?)がとてもいいです。足があるないなど全く興味がなさそうですし、モノを記号としてみないというか、いわゆる動物的というか、とにかく極めてシンプルです。
二人でクラブへ行き、アリはそこで知り合った女と、ステファニーを置き去りにしたままどこかへ消えてしまうシーンがあります。当然、ステファニーは「私はあなたの何なの?」ってな具合に怒ります。もちろん、アリはしゅんとはしますが、どうなんでしょう、あれって感じてますかね(笑)。
ただ、もしステファニーに何かあれば、多分アリは命を賭して守り抜くでしょう。「君と歩く」ということではなく、そういうことです、この映画は。
マリオン・コティヤール、いいですね。アリが始めて(だったと思います)殴り合いをするシーンで、ステファニーが車から降りて杖をつきながら歩いてくるカットがあるのですが、ムチャクチャしびれます。「預言者」のラストシーンのような、全てがすーとクリアになるようなカタルシスを感じます。
マティアス・スーナールツもとても良かったです。