コメディにしては息子役のサムリ・エデルマンさんがもの足りず、シリアスにしては…
アキ・カウリスマキ監督の映画はそこそこ見ていますが、ミカお兄さんの作品は初めてです。日本で劇場公開された映画はあるのでしょうか?
「旅人は夢を奏でる」とは、またしゃれた(笑)タイトルですが、こちらのサイトによると原題は「北への道」といった意味のようです。ヘルシンキから北への旅ということですね。
妻が子ども連れて実家へ帰ってしまったピアニスト、ティモ(サムリ・エデルマン)の元へ、顔も覚えていない父親レオ(ヴェサ・マッティ・ロイリ)がひょっこり現れます。神経質そうなティモとは違い、全てに適当そうな父親ですが、3歳の時に別れたきりとはいえ、そこはやはり父親ということでしょうか、ウルフランドへ一緒に行ってくれとの話に、コンサートの出演まで断り同行します。
父親の目的は、ウルフランド(わりと近いところのよう)ではなく、二人の旅は北へ北へと続き、いわゆるロードムービーのスタイルをとることになります。
それにしても、父親のいい加減なことといったらないですね。いや、いい加減じゃなくて、ほとんどが犯罪です。そもそも冒頭、どこかの国からフィンランドに入国するんですが、パスポートは偽造(盗品?)ですし、肝心の車も翌朝盗みに行きますし、その帰りにコンビニで強盗はするしといった具合です。まあ、映画ですし、何キロあるんでしょう?その体型もあって、ちょっとした子どものいたずらにしか見えません。「フィンランドが誇る生きた国宝の1人」らしいヴェサ・マッティ・ロイリさんのキャスティングが狙い通りということでしょう。それに、やや唐突な結末ではありますが、ラストまで見れば、こうしたキャラもさもありなんといった感じではあります。
こうした設定からすると、これは親子の絆ものかな? あるいは、堅物っぽいティモの心の解放ものかな?との想像をしつつ見ていたのですが、意外にもそうした感じはあまりなく、先々で会う人々が、存在さえ知らなかった姉や祖母、それに実の母であるにもかかわらず、かなりさらっとした描き方で、そのあたりは嫌な感じもなくとても心地よいものでした。
反面、やや中途半端な感じは免れず、父親との出会いによるティモの変化もあまりうまく描かれているとは言えず、父親と母親の意外な過去も、もし事実だとしたら(事実なんですが)相当なことなのにリアリティゼロですし、そもそも車を盗んだり、コンビニ強盗に入っても何も起こらず、コンサートをすっぽかしても、その立場に何の変化もないというのは、さすがに適当すぎるような気はします。
ただひとつ、ホテルで出会った母子を父子で口説くために、即興で歌い、演奏する場面は、結構じんときます。やはり音楽の力は強いですね。
コメディにしては、息子役のサムリ・エデルマンさんがもの足りず、シリアスにしては、物語が適当すぎて感情も動かず、ロードムービーにしては、内容がクリアすぎて気持ちが浮遊しないという結果となりました。