ある過去の行方/アスガー・ファルハディ監督

「彼女が消えた浜辺」「別離」そしてこの作品、アスガー・ファルハディ監督の映画づくりのテーマやこだわりや手法は一貫しているようです

別離」の評価が高かったせいでしょうか、平日の昼間でしたがほぼ満席でした。いやむしろ、平日昼間だからよく入っていたと言える映画なのかも知れません。最近では、もちろん映画の内容や映画館のイメージにもよりますしアニメを見ない私の印象ですが、映画は高齢者の娯楽と化しているようです。


『ある過去の行方』予告編

「彼女が消えた浜辺」「別離」そしてこの「ある過去の行方」、アスガー・ファルハディ監督の映画づくりのテーマやこだわりや手法は一貫しているようです。どの作品も人と人の別れをベーステーマに、ちょっとした行き違いが悪い方へ悪い方へといってしまう人間関係をサスペンスタッチで描いています。

「彼女が消えた浜辺」は、カスピ海への避暑というイランの日常の一面を描き、これまでのイラン映画の印象とは少し違ったいい映画でしたが、サスペンスという意味では曖昧なところが多い印象でした。「別離」は、起きた出来事はほぼ全てあからさまにした上で、人間の心の揺れだけでほぼ完璧なドラマに仕上げていました。で、この「ある過去の行方」、かなりの期待をもって見にいったのですが、少しやり過ぎの感が強く、初めて(らしい)のイラン国外、フランスでの撮影に力が入りすぎたのかなあという印象です。

ちょっとした行き違いが次から次へと明かされる後半は、そんなドンデンのスパイラル模様ではなく、マリー(ベレニス・ベジョ)、アーマド(アリ・モッサファ)、サミール(タハール・ラヒム)三人の心の揺れ模様を、サミールや娘リュシー(ポリーヌ・ビュルレ)に、マリーのアーマドへの断ち切れない思いをせりふで語らせるのではなく、そうしたごちゃごちゃした大人のずるさや思い切りの悪さをもっと描いて欲しかったなあと思います。

いやいや、充分出ていたかも知れません(笑)。クリーニング店の従業員ナイマ(サブリナ・ウアザニ)まで巻き込む展開にちょっとばかり違和感を感じたからこんなことを感じたのでしょう。