モノクロのスタンダードサイズで撮られた映像は美しく印象的です。構図も特徴的です。
公式サイトのフォトギャラリーを見るだけでもその一端は感じられると思いますが、モノクロのスタンダードサイズで撮られた映像は美しく印象的です。構図も特徴的です。下のトレーラーの静止画像もそうですが、多くのシーンで、画面全体に対して人間の占める比率は小さく、さらに人物が画面の下や端に置かれています。
カメラはラストシーンを除いて強固なまでに(そんな印象)固定されており、寡黙でストイックなカットが、これ以上ないくらい大胆に編集されています。シーンが変わるところなど、一瞬、ん?と、躓きそうになるところがありますが、見終わってみれば、それも気になるほどではありません。
60年代初頭のポーランド。孤児として修道院で育てられた少女アンナは、ある日院長からおばの存在を知らされる。一度も面会に来ないおばに興味をもったアンナは彼女を訪ねるが、そこでおばの口から伝えられた言葉に衝撃を受ける。「あなたの名前はイーダ・レベンシュタイン、ユダヤ人よ」。突然知らされた自身の過去。私はなぜ両親に捨てられたのか?イーダはおばと共に出生の秘密を知るために、旅に出ることに……。(公式サイト)
アンナ(アガタ・チュシェブホフスカ)と叔母ヴァンダ(アガタ・クレシャ)の数日間の旅は、一見ロードムービーのようにもみえますが、決して移動感やドライヴ感が味わえるわけではありません。そもそもパヴェウ・パヴリコフスキ監督にそんな意図はないでしょうし、美術館で、あるいはギャラリーで、作家の人生をたどる旅に似た感覚です。
アンナは自らのこれからに苦悩し、叔母ヴァンダは過ぎ去りし過去に苦悩します。そして、ふたりの人生が交錯する時、共にそれぞれの道へ踏み出していきます。
ラスト、それまで頑なに動くことを拒んできたカメラが突如動き出します。足早に修道院へと向かうアンナを(多分)レール上のカメラで追い、次のカットではそのアンナを正面から移動カメラでとらえます。
二人を見つめるパヴェウ・パヴリコフスキ監督の距離感がいいですね。ヴァンダの衝動的な(かどうかは分からない)決断も映画的そのものですし、それがあってこそ、その後のアンナの行動も腑に落ちます。
パヴェウ・パヴリコフスキ監督、日本での劇場公開作はこの作品だけのようですが、DVDスルーが2本あるようです。