あの頃エッフェル塔の下で/アルノー・デプレシャン監督

3つの回想はともかく、ラストシーンは監督に自伝的な後悔の意識でもあるのかな…と思わせるわがままな映画でした

2016年最初の映画は、2、3日前に見たアルノー・デプレシャン監督の「あの頃エッフェル塔の下で」です。

アルノー・デプレシャン監督の映画は、「クリスマス・ストーリー」「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」を見た記憶では、こういう映画だ!というはっきりした印象はないけれど何となく捨てがたい魅力があるといったところです。

さて、この映画はどうなんでしょう?

外交官で人類学者のポールは、長かった外国暮らしを終えて、フランスへ帰国する。ところが空港で、彼と同じパスポートを持つ“もう一人のポール”がいるという奇妙なトラブルに巻き込まれる。偽のパスポートが忘れかけていた過去の記憶を呼び覚まし、ポールは人生を振り返りはじめる。幼い頃に亡くなった母、父との決裂、弟妹との絆。ソ連へのスリリングな旅、そしてエステルとの初恋。(公式サイト

基本、青春物語ということで比較的はっきりはしていますが、回想としてそこへ持っていき方があまりにも大層で、あるいは違うことがしたかったとか…(笑)。

主人公らしきポール(マチュー・アマルリック)が、同じパスポートを持つもうひとりの自分がいると空港で拘束され、身分も明かさぬ男から尋問を受けるあたりは、サスペンスものか? どうなるんだ? などとその手の期待感をもって見ていましたら、「1少年時代」と、番号があったかどうかは記憶がありませんが、確かアイリスインという技法の、覗き穴から見るような画で回想へ導入され、わけの分からぬまま、男の子と母親らしき女性の何やらよく分からない言い争いに立ち会わされます。

同じパスポートを持つ男がいるのは、パート2の旧ソ連でパスポートを譲ったことが原因なわけですが、そのことが映画の軸なのかといいますと実はそうではなく、どうやら、この映画の主題は「3エステル」らしく、ポール19歳、エステル16歳の出会いから数年間(?)の純愛(ともちょっと違った関係)物語のようです。時間的にも、このエステル(ルー・ロワ=ルコリネ)と若きポール(カンタン・ドルメール)の恋愛を描いたパート3が最も長く半分以上を占めているわけですから、まあそういうことでしょう。

といったわけで、少年時代の母親との言い争いが何だったのか、あるいはパート2でのスパイもどきのあれやこれやが何を意味するのか、とにかく、いろんなことが中途半端なままどんどん進んでいってしまいます。ですので、最初の30分くらい(から1時間位かも知れません)は何をどう見ていいのかわからないまま放って置かれるという感じです。

ただその置き去られ感も、エステル登場あたりからは次第に消えていき、母親のこともパスポートのこともどうでもよくなっていきます(笑)。多分、この感覚が「なにか捨てがたく」感じさせる原因なんでしょう。

キャラクター作りがうまいのかもしれません。

結局、少年時代に家を飛び出し、叔母さん(かな?)のもとに身を寄せたりすることで、自立心や行動力が強調されますし、旧ソ連でのスパイ映画もどきも、友人主導の行動と見せていることで、秘めた冒険心を持ってはいるが思慮深くもある人物像となりますし、もっとも重要なことは、頻繁に読書をさせていることで、スタンダールからレヴィ=ストロースやソルジェニーツィンまで、わざわざアップで本のタイトルを見せています。そうした人物像がエステルとの会話に生きてきます。(フランス語は分かりませんが(笑))

考えてみれば、もしパート1,2がなければ、単なるベタな純愛モノとなっていたかもしれません。

一方のエステルもうまくつくられています。キャスティングがいいですね。ルー・ロワ=ルコリネさんは、撮影当時は現役のリセ在学中で映画初出演のようです。大人っぽい顔立ちに厚い唇、男を魅惑し振り回しながらも、最後はその男に一途になっていくというフランス映画には結構多いパターンの女性をうまく演じていました。

ということで、邦題の「あの頃エッフェル塔の下で」からしますと違和感の強い映画ですが、原題(Toris souveniers de ma jeunesse)が「僕の青春時代の3つの思い出」だと知って見ていれば、ああひとつ目ね、ふたつ目ねと分かりやすかったかもしれません(笑)。まあどんなタイトルでも好きにつけていいのでしょうが、「3つ」くらいは入れたタイトルにして欲しかったですね。

これも後から知ったことですが、アルノー・デプレシャン監督のヒット作(?)「そして僕は恋をする」もポールとエステルの話で、マチュー・アマルリックがポールを演っているんですね。これは見なくてはいけません。

そして僕は恋をする [DVD]

そして僕は恋をする [DVD]