大人たちの身勝手さが際立つ映画だが、子どもたちが同じ大人にならない保証のない世界
公式サイトから引用しますと、この映画は、
「世界各国の映画祭で上映され、本国ルーマニアではアカデミー賞・最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞。まるでドラマのよう、けれど本作は現実の世界を映したドキュメンタリーだ。」
ということで、これ、本当にドキュメンタリー? ドラマじゃないの? と思うくらいの不思議な映画です。
日本のドキュメンタリーは、ナレーション主体のものや記録映画的なものが多いのですが、海外のものはこうした生活の中のドラマを捉えたものが多いですね。
監督:アレクサンダー・ナナウ
トト(10歳)には、ふたりの姉がいる。美しくどこか儚げなアナ(17歳)、気が強く活発なアンドレア(14歳)。お母さんは麻薬売買で服役中、お父さんのことは…顔も知らない。三姉弟が暮らすボロアパートは、夜になるとヤク中たちの溜まり場になってしまう。小さく丸まって眠るトトのとなりで、男たちが腕や首筋に注射針を刺す。
子どもたちの前で、なに隠すことなく注射針を腕に刺す男たち。生活の中のドラマといっても並の生活ではありません。
これです。奥で眠っているのが長女のアナでしょう。
一体どういうことだ!? ドラマでもないのに、いやドラマだとしてもだが、なぜ、こんな画が撮れるのだ!?
というのが率直な感想です。
どうやら多くの映像は「トトのふたりの姉」のうち、14歳のアンドレアが撮ったもののようです。
場所はルーマニア、ブカレストのロマ・コミュニティ(と公式サイトにはある)ですが、この大人たちは一体何を考えているのかという気持ちになります。
注射しているそのクスリはどうやって手に入れているのだ? 誰かがただでくれるわけでもないでしょうから、何らかのお金はいるでしょう。
これはもう貧困とかの問題ではないような気がします。貧困とクスリが結びつくのは必然ではないでしょう。
と、まあよく分からないながらも怒りが先にくる映画ですが、物語(と言っていいのかどうか?)としては、トト、アンドレア、アナの三人は、母親は麻薬所持か密売かの罪で服役中、確か刑期は7年といっていたと思いますが、映画は4年目で仮釈放の審査を受けていたように思います。
父親が誰かも知れず、現在、建前としては母親の兄弟たちが保護者となっているようです。といっても、夜な夜なトトたちの家に来てクスリをやっているのはその叔父たちじゃないかと思います。
物語は、公式サイトのストーリーに詳しいのですが、その後、トトはヒップホップ大会で2位になり、やっと母親も仮釈放が認められ出所します。
ラストシーンが印象的です。
母親は刑期の1年(だったと思う)を残してやっと仮釈放が認められます。トトとアンドレアが迎えに行き、三人は列車で家に帰っていきます。
トトはうつ伏せて寝ているかのよう、多分眠っていないでしょう。向かい合わせに座った母親がアンドレアを責めます。
「刑務所を出れば一緒に暮らせると思って楽しみにしていたのに、アンタたちは施設に入ってしまっている。私はどうすればいいのだ。」
と。
アンドレアは(どこへだったか?)席を立っていきます。母親は反対の席で眠っているかのようなトトに
「こっちにきなさい。抱いてあげるから。」
と言います。
トトは「嫌だ。」と拒絶します。
列車の窓枠に置かれたコカコーラの瓶、そして母親の横顔、列車が走るにつれ、何の明かりでしょうか、反対側の窓から差し込む光がそれらをゆっくりなめていきます。
おそらく、その光は演出的に後処理で入れられたものでしょう。
でもまあ、それが映画というものです。たとえドキュメンタリーであっても。