そんなには褒めないよ。映画評

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ハートストーン

(ほぼネタバレ)ラストのカサゴがかすかな救いでも、子どもたちの見る希望なき世界

2017/07/23

アイスランド映画です。

最近では、「ひつじ村の兄弟」と「馬々と人間たち」を見ていますが、どちらも辺り一帯知らない者のいないような狭い地域の人間模様がテーマでした。

この映画もそうした生活環境は同じようなものですが、物語は思春期を迎えた少年少女たちの話です。

グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン監督は30代なかば、この映画が初の長編とのことです。数本撮っている短編では評価は高いと公式サイトにあります。 

監督:グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン

アイスランドの小さな漁村、ソールとクリスティアンは幼なじみでいつも一緒。ソールは思春期にさしかかり、大人びた美少女ベータのことが気になりはじめる。クリスティアンはそんなソールの気持ちを知り二人が上手くいくよう後押しする。ただそこには二人を見守りつつ複雑な表情を浮かべるクリスティアンがいた…。(公式サイト)

2016年のクィア獅子賞(Queer Lion)を受賞していますね。この賞は、「ヴェネツィア国際映画祭で上映された作品のうち、LGBTやクィアカルチャーを扱っている映画の中から最高の作品に与えら(ウィキペディア)」れるとのことです。

ただ、この映画、そうした面がひとつの大きなテーマではありますが、全体としては、冒頭に書いたような狭い地域社会の中の、思春期をむかえ性に目覚め始めた子どもたちの友情、愛情、そして別れといった青春の物語であり、また、その時子どもたちには大人の世界はどう見えていたかということだと思います。

幼なじみのソールとクリスティアン、映画はほぼソールの視点で進んでいきますが、クリスティアンはそのソールに愛情(かな?)を感じています。当然、今の時代、ましてや狭い地域社会であればなおのこと、クリスティアンは自らのセクシャリティに悩み苦しむことになります。

ただ、クリスティアンの苦悩がシーンとして描かれるのはワンシーンくらいで、ことさら強調されることはなく、 ソールの見た目で描かれることが多く、(ソールの)青春のひと時の思い出といった感じが強い映画です。

また、子どもたちの世界では、確かにクリスティアンやソールを囃し立てたりするシーンはありますが、それ以上の陰湿ないじめがあるようには描かれておらず、ソールの姉たちにしても、いわゆるボーイズラブ的な感覚でソールたち二人が寄り添う姿を絵に書いたり、またニュアンスはもうひとつよくわからなかったんですが、女友達がクリスティンに「ゲイでも気にしなくていいのよ」というシーンを入れたりしています。

ですので、ある意味では、この映画は子どもたちの社会が大人たちの反映であることを見せている面もあり、たとえば、クリスティンの父親がバーで喧嘩をしたらしく、その原因は村の誰彼がゲイであるとかであり、その後、その家族が引っ越したとかの事件が語られるのですが、それはあくまでもその事自体がどうこうではなく、子どもたちが耳にした伝聞として描かれているわけです。

また、ソールの母親は、多分夫の浮気だと思いますが離婚しており、それが原因かどうかは分かりませんが、何やらイライラしている、あるいはフラストレーションが溜まっている人物として描かれており、ある時、ソールたちがクラブのようなところへ行こうとしますが、ソールはそこに男たちに媚を売る様の母親を見つけ、皆にここは入れないと入れまいとするシーンがあります。

結局、その男、ソールたちもよく知る男なんですが、一晩家に泊まったらしく、朝、ソールの姉たちが母親に「お母さんのせいで私たちは悪く見られる」と詰問します。

といったように、この映画は、大人たちやその世界が描かれるにしても、伝聞であったり、ソールの見た目であったりと、子供の世界から見えている、やがて自分たちもそこへ入っていくだろう、そこで生きていかなければならない、言うなれば子どもたちにとっては光り輝いていない世界として描かれています。

ですので、ある種の青春映画ではあるのですが、どこかどんよりと、あるいは地域的なことが反映されているのかもしれませんが、雄大で美しい自然とはいっても、いつも空は雲で覆われており、やがて雪に閉ざされる長い冬が、ある一晩で雪景色に変わることで暗示されており、結局、ここから出られないかもしれないあきらめの青春物語ではあります。

深読みし過ぎかもしれませんが、冒頭ソールたちが港で魚を釣り上げる(よくわからなかったので釣りじゃないかも?)シーンの残虐性や、その魚を持ち帰り母親に渡すも母親はそのまま放置し腐らせることや、羊が犬に襲われて飼い主が羊を殺処分したり(これも正しく見られていないかも)するシーンも何やら暗示的で、ある種の殺伐さが全体を覆っているように感じられるのです。

冒頭とラストに「カサゴ」が象徴的に使われています。

上にも書いた冒頭の大量に魚を手にする場面(あれ、泥棒?)、手にした「カサゴ」を誰かが醜いといって叩き潰してしまいます。つまり異質なものという意味でしょう。

そしてラスト、自らのセクシャリティに悩むクリスティアンが自殺未遂を起こし、親たちの判断で街へ引っ越すことになったと知ったソールは、港で自分よりもさらに年少の子供が同じく「カサゴ」を醜いと言いながらもそのまま海に投げ入れるところを目撃するのです。 

とまあ興味深い映画ではあるのですが、率直に言って長いです。129分とありますが、もっと長く感じます。

そうそう、何を意図していたかはよく分かりませんでしたが、ソールやクリスティアンや女ともだちが横になっている時の顔のアップが異常に多かったです。

もうひとつ、余計なことですが、日本ではカサゴはちょっとした高級魚に入るのではないかと思いますが、アイスランドでは嫌われ者なんですね。美味しいのにね(笑)。

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