「ローサは密告された」を見た際に、ブリランテ・メンドーサ監督がイザベル・ユペールさんで撮った映画があることを知り、2009年のカンヌで監督賞を受賞した「キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド-」とともに借りてみました。
この「囚われ人」の元となっているのは、イスラム・ゲリラ組織アブ・サヤフによって、2001年5月にパラワン島のリゾートホテルから20人の観光客が身代金目的で誘拐された事件です。
日本でニュースになったのかどうか、それも全く記憶にないのですが、2001年と言えば 9.11 の年であり、この映画の中でもゲリラたちがそのニュースをラジオで聞いて歓声を上げていました。
誘拐といっても、一般的にイメージする、人質がある場所に監禁されてといったものとは違って、そもそもアジトのようなものを持たない組織なのか、ジャングルの中をただひたすら移動し続けます。
もちろん人質を連れて移動するわけですが、この事件、解決するまでに377日かかっているらしいです。丸1年ですよ、想像を絶しますね。
冒頭に、「事実に基づいている」と表記されていますが、こうした事件の事実などわかろうはずはありませんので、仮に基づいているとしても、大まかな時間経過と、結果としての事実関係だけだと思います。
で、この映画でみえてくることは、ここには善悪や正義といった価値観で判断できるものはないということです。たとえば、人質とゲリラたちがジャングルを歩いていますと、突然その相手が誰だかも分からないまま銃撃を受け、ゲリラだけではなく人質も危険にさらされます。
そうしたことが幾度もあります。フィリピンの軍であったり、武装グループという字幕もありましたが、とにかくそうした社会的な状況は映画を見ていてもよく分かりません。
人命第一などという価値観はないようですし、はっきりしたことは分かりませんが、解決まで1年に及ぶ長期間にわたった理由には、政府や軍の担当者の不正、つまり、人質の家族や関係者が身代金を支払っても、それをくすねてしまっていたということも言われているようです。
また、実際にどうであったかは分かりませんが、ゲリラたちの統制は取れており、人質を暴力的に扱うことはなく、人間的な交流が生まれることもあったように描かれており、立ち寄った村で食事を振る舞われたりしています。
おそらく、ブリランテ・メンドーサ監督の視点はそこでしょう。
「ローサは密告された」でもそうでしたが、そこにある状況を描くのみといった感じで、善悪の視点で物事をみていないようなところがあります。
という意味でみれば、この映画にイザベル・ユペールさんを起用したわけも何となく見えてきます。ブリランテ・メンドーサ監督はああいう俳優が好きなんだと思います。「ローサは密告された」のジャクリン・ホセさんもそういうタイプです。
イザベル・ユペールさんって、物語(映画)にコメントを加えないんですよね。
ちょっと分かりにくいかも知れませんが、どの映画でも超然としているんですよ。映画の物語なんてどうでもいいと思っている(わけではない)かのようなところがあるんですよ。
で、それがうまくはまれば、たとえば「エル ELLE」のようになりますし、うまくはまらないと、この映画(笑)、いやいや、実は微妙で、よく分からないんですよ。この映画が何なのか(笑)。
何はともかく、「ローサは密告された」を見ていなくてこの映画を見ていたら、何だこれ!?で終わっていたかも知れません。