女の一生

なかなか一筋縄ではいかないけれど、見終われば何かが見えるかも

フランス文学の古典は結構読みましたが、モーパッサンの「女の一生」を読んだかどうかは忘れてしまっています。

読んでいれば、映画が思い出させてくれるでしょう。

ステファヌ・ブリゼ監督の映画は、「母の身終い」と「ティエリー・トグルドーの憂鬱」を見ているだけですが、それらの印象から思うに、こうした古典を映画化するということ自体になんとなくへぇ~とちょっとした驚きを感じます。

さて、どういう映画なんでしょう。

監督:ステファヌ・ブリゼ

世界中で何度も映像化されてきた不朽の名作「女の一生」が、再び映画化された。時代も国も超え、1883年に刊行された古典文学の、何がそんなに私たちを魅了するのか――。(公式サイト

これは、読んだことがあるかどうか思い出せるような映画ではありません(笑)。批判ではなく、物語を説明している映画ではないということです。

じゃあ、どういう映画か?

人生の現実は不幸の連続である、しかしながら思い出は幸福に満ちており、(老いて)振り返ってみれば、さほど捨てたものではない(ホントか(笑))、そうした不幸な現実と幸せな思い出をモザイク模様に編集した、そういう映画です。

男爵家の令嬢ジャンヌ(ジュディット・シュムラ)は両親の愛情を一身に受けて育ち(ったよう)、17歳の時(かな?)、子爵ジュリアン(スワン・アルロー)と結婚します。しかし、ジュリアンの愛は続かず、ジャンヌの乳姉妹ロザリ(ニナ・ミュリス)と関係を持ち妊娠させてしまいます。

ロザリは屋敷を追われ、ジュリアンの気持ちも戻ったかと思われましたが、今度は友人のフルヴィル伯爵の妻と関係を持ち、(映画では描かれていませんが)その妻ともども殺されてしまいます。

原作では、フルヴィル伯爵が2人の逢瀬の小屋を谷に突き落とすとのことなんですが、映画はそのことを何か言っていましたっけ?

この2人のことについては、ジャンヌと神父(ジュリアンを紹介した本人)のやり取り、神父が「2人のことを伯爵に話しなさい」と言いますと、ジャンヌが「いえ、伯爵を傷つけることは言えません」などと返すシーンがかなり長めにあったのですが、ジュリアンがどうなったかははっきりしないまま次に進んでいたように記憶しています。ひょっとして、 私、落ちてました?(笑)

とにかく、画がその時のものなのか、過去のものなのか、あるいは未来のものなのかよく分からないシーンが多いんです。

で、物語の続きですが、後半は息子ポール(フィネガン・オールドフィールド)の放蕩がジャンヌを悩まします。ロンドンで事業を興すとかで旅立ってしまい、その後、本人は全く出てこず、手紙やジャンヌの失意の表情で語られていくのですが、借金は作るわ、金はせびるわで、ジャンヌは屋敷はおろか、財産すべてを失ってしまいます。

ただ、ジャンヌ自身がポールを信じ切っていることや、そもそもその時代の男爵令嬢はお金という価値観を持ち合わせていない描き方がされており、ジャンヌに悲しみはあっても、それを苦悩や不幸と感じているわけではないというところがこの映画の肝でしょう。

で、終盤、(おそらくジャンヌのことを思ってなのでしょう)ロザリがジャンヌのもとに戻ってきます。息子のポールはお金をせびる時しか手紙をよこさないのですが、その理由に子どもができ大変といったことが書かれており、ロザリが、私が様子を見にロンドンへ行きますと旅立ち、そしてラスト、子どもを連れて戻るところで映画は終わります。

最初に書いた、物語を説明する映画ではないという話ですが、映像も、スクリーンサイズはスタンダードでかなり狭く、意図的に窮屈な印象を与えるようにつくられています。

窮屈さはカメラワークでも徹底しており、室内のシーンは暗く、バストショット以上になることはほとんどなかったと思います。一方、屋外のシーンは、陽も差し明るく、走り回ったりするところをフルショットでとらえたり、自然も豊かで、ある種希望を感じさせるようなつくりになっています。

そうした過去、現在、未来(ラスト、ロザリの帰りを待つカットじゃないかと思う)を、私は上にモザイク模様と書きましたが、監督が「映像のミルフィーユ」と語ったとの記事もありますし、その方がぴったり来る表現ですが、重ね合わせるように編集しています。

決して楽しめる映画ではありませんが、違和感を感じつつも、時に一瞬落ちたりしながら(笑)じっと見ていますと、不思議に、人の一生とはこういうものかもしれないと思えてくるのです。

それにしても大胆なつくりの映画です。こうした映画が、それも古典を原作としつつ作られるフランスという国の映画界の奥深さを感じます。

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ティエリー・トグルドーの憂鬱 [DVD]

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