面白いけれど、(理由不明で)方向性定まらず
こういう企画はどこから立ち上がるんでしょう。面白いですよね。
脚本も SUBU さんとなっていますから SUBU さんなのか、青柳翔を出演させている LDH の森雅貴さんという人なのか、興味のあるところです。
とは言っても、そのどちらの人物にも特別の思い入れがあるわけではなく、日本の映画監督ももっと海外で仕事をした方がいいように思うだけです。
監督:SUBU
殺し屋ロン。東京にいる台湾マフィアを殺す仕事を請け負うが失敗。北関東のとある田舎町へと逃れる。日本語がまったくわからない中、少年ジュンやその母で台湾人のリリーと出会い、世話好きの住民の人情に触れるうちに、牛肉麺の屋台で腕を振ることになる。屋台は思いがけず行列店となるが、やがてそこにヤクザの手が迫る。(公式サイト)
結構笑わせてもらいました。面白かったです。
導入から序盤のかっこよさから、中盤頭くらいのコントっぽいシーン、上の公式サイトの引用で言えば「世話好きの住民」とロン(チャン・チェン)のやり取り(といってもロンの台詞はない)までは、この映画、かなりいけるぞと見ていました。
もう少し詳しく書きますと、冒頭は台湾(高雄?)の夜景シーンから始まります。きれいなこともあり結構惹きつけられます。そして殺し屋ロンの仕事の場面、ナイフの達人ですので、ナイフアクションで数人をあっという間にやっつけてしまいます。
テンポもありますし、クライム映画っぽいつくりがとてもいいです。
そして、次なる指令を受けたロンは東京へ、ところが殺しに失敗、逆にヤクザや台湾マフィアに追われる羽目に陥ります。
ここまでがカッコイイところで、ここからは笑える場面です(笑)。
追われるロンは、車の荷台に飛び乗り、東京郊外の地方都市(ロケ地は足利)へやってきます。逃げ込んだところは廃墟になった社宅のようなところ、誰も住んでいないような平屋の長屋が密集しています。
あれはどういうところなんでしょうね? 演出として廃墟っぽくしたのか、ロケ地として探したのか、印象としては、たとえば工場であるとか、炭鉱であるとかの周辺に作られた住居が、会社の閉鎖によって廃墟になったようなそんな感じで、家も傷み、戸や窓が傾き、ゴミは散らかっています。実際ロンが入りこんだ家は誰も住んでいない廃屋でしたし、結局、ロンはそこに住み着くことになります。
で、ケガをしたロンをジュンという少年が助け、交流が始まり、そこへ突然(笑)数人の住民がやってきて、ロンを構い始めます。
この構い方がとてもユニークで、(私は)無茶苦茶笑いました。多分ああいうのツボにハマるんですね。
その住民たちは、ロンを構ってはいても、ロンの意思など関係なく、勝手にロンに牛肉麺の屋台をやらせてしまいます。要はお節介なんですが、この住民たちがどこかの劇団の人たちのような、ボケもツッコミも自分たちで全てやってしまうといったノリで笑わせてくれます。
といったあたりまではテンポも良くかなりいい感じだったんですが、中盤からは全く違う映画になってしまいます。
怪我をしたロンを助けてくれたジュンという少年は、台湾人のリリー(イレブン・ヤオ)の子どもなんですが、中盤はこのリリーをめぐる話になってしまいます。
リリーは、日本に働きに来ているのでしょうか、キャバクラのようなところで働いており、そこの送迎ドライバー(かな?)の賢次(青柳翔)と愛し合うようになり、ジュンが生まれますが、そのことが原因で賢次は殺されてしまいます。
失意のリリーは、ヤクザな男に付け込まれシャブ中になってしまい、ロンが逃げ込んだ住宅地の何処かで体を売ってそのお金を稼いでいるようです。
この一連の回想、リリーと賢次のラブストーリーやその後の経緯が、セリフ無しのイメージフィルムのような作りになっており、序盤のトーンからするとかなり異質に感じられます。
ああ、逆かな? むしろ序盤のクライム映画っぽいトーンのほうが短く、このイメージフィルムっぽい作りは、この後も、ロンがリリーのクスリを抜くサポートをし、その後牛肉麺の屋台をジュンとともに3人でやったり、日光でしたか、3人で温泉旅行に行ったりと、幸せな3人家族のようなシーンが、やはりセリフ無しのイメージフィルム調で続きます。
まあ、それぞれのシーンはさほど悪くはありませんが、何かそうせざるを得ない理由が製作レベルであるのかなと思わせるような変化ですよね。
で、結局、ラストは、リリーが付きまとわれていたヤクザに見つかり、再び脅されて自ら命を断ってしまいます。
そして、ロンと台湾マフィアやヤクザとの一対大勢の決闘シーン、ロンはナイフアクションであっという間に全員を倒してしまいます。あんなに殺しちゃって大丈夫?なんてツッコミ無用の映画です。
で、しばらく後の台湾高尾、次の司令を受けているロンが目にするのは、あの不思議で身勝手な(笑)住民たちが高尾の街をぞろぞろと歩いている姿、そしてその中にはジュンがいるのです。
ロンは思わず駆け寄りジュンを抱きしめて映画は終わります。
面白かったのですが、どこか中途半端、なにか製作上の制約が影響しているのではないかと思わせる映画でした。言い方を変えれば、チャン・チェンさんがもったいないと感じる映画でした。