もうゲイという言葉もやめようよ、ブラジル発の爽やか青春物語
ブラジル、サンパウロからの青春映画です。
ダニエル・ヒベイロ監督が2010年に撮った「I Don’t Want to Go Back Alone」という短編映画を同じキャストで長編映画化した作品とのことです。
監督は、1982年生まれですから35、6歳ですね。
公式サイトに2014年のベルリンでFIPRESCI(国際批評家連盟賞)とテディ賞を受賞しているとありましたのでググってみましたら、2014年はアラン・レネ監督の「愛して飲んで歌って」になっています。どういうことなんだろうと更にググってみましたら、パノラマ部門で受賞ということでした。ちなみにその年のフォーラム部門の受賞は坂本あゆみ監督の「FORMA」でした。
監督:ダニエル・ヒベイロ
とてもセンスのいい映画です。
視覚障害を持つレオナルド、おそらく幼馴染なんでしょう、介助というよりも一心同体にもみえるジョヴァンナ、そして転校生のガブリエル、この三人の学生生活、友情、恋愛、セクシャリティなどが何の気負いもなく極めて自然体で描かれていきます。ですから、見ていてもとても気持ちがいいです。
高校生くらいの設定かと思いますが、レオナルドは健常者と一緒に学んでいます。授業内容は点字タイプライターで打っています。かなり大きな音がしており、そのことで同級生からからかわれたりします。また、通学の途中にもいじめられたり、あからさまにからかわれたりしてします。
そのいじめやからかいは、もちろん決していいことではありませんが、陰湿には描かれておらず、レオナルドもいつものことと慣れているのか、見た目はさほど傷つく素振りはみせません。また、ジョヴァンナがひとこと「やめなさい」と言えば逃げ去ってしまいます。
ファーストシーンはその二人がプールサイドで語り合うシーンなんですが、ともに「恋」にあこがれ、ファーストキスは誰ととかどんなんだろうとか実に微笑ましいです。
ジョヴァンナはどことなくレオナルドに恋しているような感じが漂っています。レオナルドにはその気配はありません。
ある日、ガブリエルが転校してきます。ジョヴァンナはカッコイイねとまんざらでもないことをレオナルドに言いますが、本心からの気持ちとは見えません。
ただ、ガブリエルの存在によって二人の関係が微妙に変化していきます。ガブリエルはこだわりなく人に接することができるようで、レオナルドを映画に誘ったり、深夜に月食を見に行こうと、レオナルドにしてみればこれまで感じたことのない開放感を味わうことになります。
これまでは毎日の通学にもジョヴァンナが介助をしていたのですが、次第にガブリエルが介助をするようになります。当然ジョヴァンナは寂しさを味わいますし、それが逆に意固地さになってあらわれレオナルドとの間もそっけなくなってしまいます。
ガブリエルは、クラシック音楽ばかりを聞いてきたレオナルドに、「ベル・アンド・セバスチャン(よく知りませんが)」の「トゥー・マッチ・ラヴ」を聞かせたり、音楽を聞いて好きなように足を動かせばいいんだよとダンスまで教えてくれたりと新鮮なことばかりです。
レオナルドは次第にガブリエルに恋心を抱いていきます。
この映画を爽やかでとても気持ちよく感じるわけは、こうした同性への愛を異性への愛と全く同じように描いていることです。もう「ゲイ」なんて言葉はやめようよといっている感じがするんです。
で、同級生の誕生日パーティーの夜、お酒を飲んで酔っ払ったガブリエルは、帰り際にレオナルドにキスをします。後に、レオナルドにそのことを尋ねられた時、ガブリエルは何も覚えていないとお酒のせいにするのですが、実はガブリエルもレオナルドに好意を持っているのです。
そして、課外授業のキャンプ、レオナルドは仲直りしたジョヴァンナに話したいことがあると言います。おそらくジョヴァンナは(かすかにだとは思いますが)「君が好きだ」と言ってくれることを待ったのだと思います。
しかし、レオナルドの口から出た言葉は「ガブリエルを愛している」です。ジョヴァンナはショックをうけその場を立ち去ってしまいます。
しかし、この映画が爽やかで気持ちいいのは(くどい?)、この後、ジョヴァンナはとても自然に、レオナルドとガブリエルがふたりきりになる場を作るのです。
そして二人のキスシーン、ドキドキする濃厚なキスシーンでした。
ラストシーン、またひとり転校生がやってきます。ジョヴァンナは微笑みを浮かべます。
みんないい子に育っています、っていう青春映画でした。
三人の恋愛感情を中心に書きましたが、レオナルドが両親の保護から逃れて独り立ちしたいと交換留学先を探したりして両親と言い争うシーンなどもていねいに作られており、ダニエル・ヒベイロ監督の価値観がよくわかる映画でした。