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ガザの美容室

戦闘がハマス対イスラエルのものでないことにビックリ!

2018/07/01

舞台はパレスチナ自治区ガザの美容室、中には13人の女たち、外には武器を持ってうろつく男たち。日本からみれば相当にシュールなこの風景は、ガザにおいては紛うことなき現実ということなのでしょう。 

公式サイト / 監督:タルザン&アラブ・ナサール

ワンシチュエーションドラマです。

美容師2人の小さな店に10人の女性客がぎっしり、順番を待っています。 美容師の娘もいます。窓越しの路上には武器を持った男たちが座り込んだり、ぶらぶら歩いていたりする姿が見えます。こうしたシチュエーションの半日くらいのドラマです。

見ていてよくわからなかったのが、後半、外で起きる銃撃戦は誰と誰が戦っているのかということと、そのうちのひとりの男が連れていたライオンです。

こちらの川上泰徳さんの記事を読んでわかりました。

www.newsweekjapan.jp

日本でガザと聞けば、普通はハマスとイスラエルの戦闘(戦争)と考えますが、この映画の後半の戦闘は、ハマス政府とマフィア集団の争いであり、男が連れているライオンはそのマフィアが住民たちを威嚇するために使っているものだと説明されています。

これでまた、マフィア? と次なる疑問が生まれますが、1993年のオスロ合意によって、ガザとヨルダン川西岸にPLOによるパレスチナの自治が合意されたのですが、その後、PLO主流派のファタハが腐敗し、マフィア的組織が力を持つようになったそうです。

当然、ファタハは住民の支持を失うことになり、2006年の自治評議会選挙でハマスが勝利し、現在でもハマス政府とマフィア的組織の武力抗争があるとのことです。

ということで、この映画にはイスラエルという存在は描かれていません。川上さんによれば、ハマスとマフィアの武力抗争は日常的に起きているわけではなく、当然ガザが直面している現実はイスラエルとの戦争ということです。

ですので、この映画がイスラエルとの戦争を描いていないことにはそれなりの意図があることでしょうし、それにより、たとえば、なぜ現実を描かないのかとの批判も予想されることは作り手にもわかっていると思われ、なぜそうしたのかには、それ相応の理由があるのでしょう。

その理由について、川上さんの記事から引用しますと、

タルザンとアラブというガザ出身の双子のナサール兄弟監督はインタビューで、
(略)
「僕らは死ではなく人生を描きたかったからだ」と語り、「テレビやマスメディアは死を伝えるけど、日々の生活や本当の暮らしぶりには無関心だ。まるで爆撃のないガザ地区には価値がなく、存在すらしていないかのように」と続けた。

とのことです。

確かに、この映画は、美容室内の、やや殺伐とはしていますが一対一の会話で成り立つ世界と、外の、コミュニケーション不能の暴力的な世界の対比が基本的なテーマと思われます。

外で爆発音がし始める後半だったと思いますが、ひとりの女性が、私たちが政府を作ればこんなことは起きはしないといった内容の台詞を言い、あなたは〇〇大臣、あなたは〇〇大臣と指名する場面があります。象徴的なシーンでしょう。

ただ、美容室内の女性たちの会話が平和的で穏やかかといいますと、意外にそうでもなく、皆イライラしており、交わされる会話にどこか殺伐とした印象があります。それが意図されたことかどうかわかりませんが、おそらく、皆それぞれに個人的な問題を抱えているということからかと思います。

ただ、その個人的な問題というのは映画を見ていてもよくわかりませんし、映画的には、誰がどういう問題を抱えているかはさほど重要な問題ではありません。公式サイトによればこういうことのようです。

店主のクリスティンは、ロシアからの移民。美容室のアシスタントのウィダトは、恋人で、マフィアの一員アハマドとの関係に悩んでいる。亭主の浮気が原因で離婚調停のエフィティカールは、弁護士との逢瀬に向けて支度中。戦争で負傷した兵士を夫に持つサフィアは、夫に処方された薬物を常用する中毒者だ。敬虔なムスリムであるゼイナブは、これまでに一度も髪を切ったことがなく、女だけの美容室の中でも決してヒジャブを取ることはない。結婚式を今夜に控えたサルマ、臨月の妊婦ファティマ、ひどい喘息を患っているワファ、離婚経験のあるソーサン…それぞれの事情をもつ、個性豊かな女性たち。 

個人的な問題といっても、ガザの置かれている状況がゆえの問題ではありますね。

とにかく、この映画で印象的だったのは、後半、美容室の外で起きる戦闘ではなく、初っ端からやけに女性たちの会話が刺々しいなあということであり、たとえば、客が待たされてイライラして「早くやってよ」と言っても、美容師に謝罪の言葉ひとつなく、何と言ったかは覚えていませんが、言い返すわけですし、恋に悩んでいる女性に対しても、慰めたりすることなく揶揄したりしますし、妊婦が産気づいても、そっけなく冷たいものです。

ですので、この映画を見て思うことは、直接戦闘に参加しない女性であっても、戦争状態の環境に置かれれば、他人に対して攻撃的になるものかなあと、迷いのともなった感慨を感じたということです。

監督が描きたかったと語った「(ガザの)日々の生活や本当の暮らしぶり」の一端はわかったようには思います。

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