そんなには褒めないよ。映画評

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ゲッベルスと私

人は自分が悪であること、あるいは悪とともにいることに気づかない

2018/07/03

ヨーゼフ・ゲッベルスと言えば、プロパガンダの天才と言われ、ナチスの権力掌握に大きな役割を果たし、ナチスの No.2として国民啓蒙・宣伝大臣に就いた人物です。この映画は、そのゲッベルスの秘書だったというブルンヒルデ・ポムゼルさんのインタビューを構成したものです。

公式サイト / 監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンサマー、オラフ・S・ミューラ、ローラント・シュロットホファー

いきなり映し出される白黒の顔のクローズアップ、刻まれたシワの深さがその人生を象徴しているようで目が釘付けになります。

高精度カメラで撮られたとありますので高解像度という意味だと思いますが、引用の画像の印象を意図した映像でしょう。

www.afpbb.com

こちらで見るカラー写真ではまた印象が違います。

インタビューは、ポムゼルさん103歳の時とのことですので、1911年生まれから計算しますと2014年頃ということで、ポムゼルさん自身は、その3年後の2017年1月27日に亡くなられています。

邦題は「ゲッベルスと私」となっていますが、インタビュー内容はポムゼルさんの人生を語るもので、ゲッベルスに関することはあまり多くありません。

その意味ではかなり期待を裏切られましたし、率直なところ、証言としても歴史的に大した意味があるものとも思えません。

本人もナチスの党員であり、権力の中枢にいたのですから、おそらくもっと何か見聞きしたことはあるのではないかと思いますが、おそらく、知っていることがあるにしても心の奥底に封印されて(して)しまっているのでしょう。

語りの基本的スタンスとしては、ユダヤ人の虐殺についても、収容所の実態についても何も知らなかったということであり、逆に、友人であるエヴァというユダヤ人女性のことについては常に心配していたと語っており、ナチスの犯罪への自責の念のようなものはあまり感じられません。

インタビューの映像は、とらえる角度は変わっても全て顔のクローズアップですので、さすがにもたないと考えたのか、インタビュー映像数分ごと(印象として)にアーカイヴ映像が差し込まれています。

どんな映像かを公式サイトから引用しますと、

本作品には、当時、世界各国で製作された様々なアーカイヴ映像が数多く挿入される。ナチスを滑稽に描くアメリカ軍製作のプロパガンダ映画、ヒトラーを揶揄する人々を捉えたポーランドの映像、ゲッベルスがムッソリーニとヴァカンスを楽しむプライベート映像、そして戦後、ナチスのモニュメントを破壊する人々やホロコーストの実態を記録した映像。 

といった映像です。

さすがに、痩せ細って骨がむき出しになった死体の山を見せられますと息が詰まりそうになります。死体を無造作に荷車に積んで運ぶ映像もあります。荷車が傾き崩れ落ちた死体を積み直す様子など正視するのもつらいです。

ということで、この映画、原題が「A German Life」であることを考えれば、作り手の意図は、ゲッベルスに焦点を当てることではなく、漏れ聞こえてくるところのドイツ(だけではないが)の右傾化への警鐘なのではないかと思います。

つまり、人は自分が「悪」の中にいる、あるいは「悪」とともにいることには決して気づかないということではないかと思います。

ポムゼルさんは、「神はいないが悪魔はいる。この世に正義はない。」と力強く言っていましたが、ただ、およそ70年前のその時には、自分がその「悪魔」とともにいることには気づかなかったということです。

それはつまり、今、我々はどこにいるのかと問うていることになります。

もちろん、この日本でもです。

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