スターリン死後の権力闘争をギャグるも、毒にもならず
スターリンが倒れた1953年3月1日からのソビエト連邦共産党内の権力闘争の内幕がコメディタッチで描かれています。主にベリヤとフルシチョフの争いで、当初はベリヤが権力を握りますが、(映画の)最後にはフルシチョフが勝つことになります。
映画の中ではまるで時間軸がわからず、数日の出来事のように作られていますが、ウィキペディアによりますと、実際にベリヤが失脚したのはその年の6月26日、4ヶ月後くらいのようです。
といったことからもわかるように、それぞれの政治的心情にもまったく触れていませんし、仮にあったとすればですが、陰湿な謀略のようなものも一切出てきません。
であれば、もっとおバカ系なものを期待してしまいますが、そうでもなく、割と真面目に作られており、正直なところ、映画そのものが掴みづらく、何がしたいのかよくわかりません。
つまり、つまらないです。
公式サイトで監督のプロフィールを見てみますと、イギリスで活躍されているようで、TVで政治の内幕ものを撮っている方なんでしょうか。
こうした内幕ものは本来、毒(や薬)にならなくてはいけないと思いますが、まったくそのどちらにもなっていません。
もうすでに我々は、権力(者)がいかにインチキで、卑小で、偽善的なもので、それが故に傲慢に振る舞うものだということを身をもって知っています。ですので、この映画の程度の揶揄など何の意味も持ちません。
多少笑えるところはありますが、中程までくれば、その中途半端なドタバタ続きに、この映画は一体何をしたいのだ?とイライラを通り越し眠くなってきます。
結局、スターリンの死亡についてもその後の権力闘争にしても諸説あるわけですから、間違いのない事実、死後まずは、ベリヤとマレンコフが権力を握り、その後ベリヤが失脚しフルシチョフが権力の座に就いたということさえ押さえておけば、映画なんですから何をやってもいいように思うんですが…、と思いましたら、ああ、原作がありますね、フランスの漫画なんですね。B.D.とありますのでなにかと思いましたら、漫画のことをフランス語で bande dessinée というんですね。
フランスのものにしては皮肉が足らなさすぎるような気もしますが、いずれにしても、こうした権力の内幕ものは、権力がいかにバカバカしいものであるかを描くだけではだめで、そうした卑小なものであっても、戦争をおっぱじめ、人々を虐殺し、そしてまた、多くの人がその前に服従してしまうものだという恐ろしさをその裏に感じさせなければ意味がありません。
そう言えば、オルガ・キュリレンコさんがピアニスト役で出ていましたが、まったく生かされおらず、女優もひとりくらいいなければとでも考えたのでしょうか、あまりにも酷い扱いですね。