前半の良さを後半が台無しに。主演の花瀬琴音さんを生かしきれず、パターンドラマに終わる…
チェコにカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭という映画祭があるとのことで、この「遠いところ」は、昨年2022年のコンペティション部門に出品されたとあります。かなり大規模な映画祭です。この作品の受賞はなかったようですが、過去のグランプリ受賞作を見てみましたら、見ている映画では「とうもろこしの島」や「悪童日記」がありました。
前半の良さを後半が台無しに…
この見出しにつきます。前半は現実感がすごいんです。主役のアオイをやっている花瀬琴音さんにつきます。それにマッチした画もよかったということも言えます。
ところが後半になりますと一気にパターンに陥ってしまい、なんとラストはこの手の映画のこれまたパターンの感傷さで終わっていました。
そもそも物語自体がパターンなんですが、前半は花瀬琴音さんで持っていたということです。
沖縄コザです。アオイは17歳で2歳の子どもがいます。15歳で生んでいるということです。キャバクラで働いています。夫のマサヤは仕事が続きません。アオイに寄りかかっています。
キャバクラに警察の手入れが入り、17歳のアオイは逮捕(補導?)され働けなくなります。マサヤは仕事を辞めてしまい、アオイが取られないようにと隠していたお金まで盗んで使ってしまいます。咎めるアオイに、マサヤは暴力でこたえます。
家賃も払わなくてはいけない、子どもも食べさせなくちゃいけない、アオイは昼間の仕事を探しますが、時給792円ときいてやめてしまいます。そんな折、マサヤが暴力事件で逮捕され、相手から示談金を要求されます。
実際にはいろいろ展開はありますが、結局アオイはデリヘルで働くことにします。ある日、匿名の通報があったらしく、児相の職員がやってきます。葵は追い返しますが、後日、子どもが保護されてしまいます。
同じ頃、アオイの友人が自殺してしまいます。この自殺はよくわかりません。うまく描かれていないということです。とにかく、アオイは絶望します。ある日の深夜、アオイは児相に忍び込み子どもを連れて海岸に向かい海に入っていきます。
アオイは子どもを抱き上げながら笑っています。
このことにつくり手が怒っていない…
あらすじで書けばこんな感じのパターンドラマです。もちろん映画ですので細かいことはいろいろあります。
一番は沖縄の特殊事情でしょう。これが正しいデータかどうかは確認していませんが、公式サイトから引用しますと、
沖縄では、一人当たりの県民所得が全国で最下位。子ども(17歳以下)の相対的貧困率は28.9%であり、非正規労働者の割合や、ひとり親世帯(母子・父子世帯)の比率でも全国1位(2022年5月公表「沖縄子ども調査」)。さらに、若年層(19歳以下)の出産率でも全国1位となっているように、窮状は若年層に及んでいる。
(遠いところ)
ということです。で、この映画のつくり手たちはこのことに怒っていますか。
映画を見た感想で言えば、引用したこのことに怒っていたらこんな映画はつくれないでしょう。
じゃあどうすればいいのか…
本当に沖縄が描きたいのであれば、沖縄に入り、沖縄の物語を見つけることだと思います。
貧困が描きたいのであれば、この映画のような貧困の表層に飛びつかないことです。