アイミタガイ

いい人、いい話が求められるときは、はて?…

黒木華さんを見に行った映画です。

アイミタガイ / 監督:草野翔吾

閉じた円環…

いやあ、びっくりしました。

登場人物すべてが、その人物も知らないところで他の人物とつながり、最後の最後、食品サンプル会社の夫婦の金婚式に出席したおじいちゃんに抱かれて眠る子どもにまでつながっているという恐るべき映画でした。よくもまあこんな話を作ったものだと思います。

その意味では脚本家あっての映画ということになります。

脚本は市井昌秀さん、佐々部清さん、そして草野翔吾監督の連名になっています。公式サイトには「市井昌秀が脚本の骨組みを作り、故・佐々部清が魂を注いだ企画」とありますので主には市井昌秀さんのものだと思います。

この映画の目的は登場人物全員をひとつの円の中でつなげることにあるんでしょうし、それを見事に成し遂げています。

とにかく脚本はお見事でした。

ただ、その円は閉じていますし、いい話の中で閉じた社会に未来はあるのかとは思います。

もちろん、そんなツッコミを入れてはいけない映画であることとあわせて、あえて言えばのはなしです。

いい話ファンタジー…

ということで、かなり複雑に構成された映画ですので、一回見ただけその物語を詳しく書くことは不可能ですし、たとえ書けたとしても、本当のところは映画を見ないとよくわからないと思います。

基本的にはいい話ばかりの映画です。その散りばめられたいい話が最後にピタリとモザイク模様に収まります。ただ、そこに浮かび上がるのが「相身互い」と言えるかどうかはやや疑問です。ツッコミを入れるところではないとは思いますが、相身互いという言葉はちょっと意味が違います。

ブライダルプランナーの梓(黒木華)と恋人の澄人(中村蒼)がいます。澄人は結婚を考えていますが、梓は自分の両親が離婚の際に争ったということから結婚に踏み切れません。その梓が最後に結婚へと踏み出すまでが物語の縦軸になっています。

その縦軸を取り巻くように円環の物語が始まります。

梓は中学時代に苛めにあっており、そのとき助けてくれた叶海(藤間爽子)とは今も親友です。叶海はカメラマンであり、海外での仕事の際に事故にあい死にます。

その喪失が物語を生み出します。叶海の両親(西田尚美、田口トモロヲ)の手元にある叶海のスマホには今も梓からの LINE が届きます。叶海あてに児童養護施設から子どもたちのメッセージカードが送られて来ます。施設長(松本利夫)は、叶海が取材で訪ねてきて以来、季節の折にいろいろ送ってきてくれていると話します。

梓の叔母(安藤玉恵)は家事ヘルパーです。クレームが入った前任者の代わりに一人住まいの94歳の老婆(草笛光子)の家にヘルプに入り気に入られます。その老婆の家には年代物のピアノあり、老婆は3歳の頃からフランス人にピアノを習っていたと話します。

梓のプランニング会社では金婚式の企画も受け付けており、高齢のピアニストを探しています。梓は叔母の紹介でその老婆宅を訪ねます。実は、その家は叶海と梓が中学生の頃に内緒でピアノ曲「家路」を聞き入っていた家です。もちろんその老婆が弾いていたのですが、その訳は70数年前に自分のピアノで同年代の若者を戦場に送り出していたことを悔やんでいたからです。「家路」、Goin’ Home です。

他にも、梓と澄人が訪ねる梓の祖母(風吹ジュン)や叶海の両親が児童養護施設に向かうときに乗るタクシーの運転手(吉岡睦雄)なども、そこまで絡めるかというほどに関連させてあります。

ああ、澄人と叶海の父親の電車の中のエピソードもありました(笑)。もう笑うしかないというレベルまで作り込んであります。

そしてラスト、叶海の母親が LINE に踏み出しなさいとメッセージを送ります。

梓は澄人のプロポーズを受け入れます。二人が婚約指輪を作るために宝飾屋さんを訪れますと、その主は梓が企画した金婚式に出席していた客であり、その胸の中で眠っている子どもが手にしているのは、金婚式の主賓の食品サンプル会社で作られた引き出物のモンキーバナナです。

お見事! という言葉しか出てこない映画です。

いい人、いい話が求められる時代…

いい人、いい話が求められる時代ということなんでしょう。

ところで俳優さん、皆うまい方たちでした。

黒木華さんはもう安心の一言しかありませんが、へえーと思ったのは田口トモロヲさん、もちろん名前は知っていますが、あらためて出演作を見てみてもあまり見ている映画がないことにびっくり、すごい渋い演技でした。

中村蒼さん、出演作を見てみましたら「もみの家」、「ポンチョに夜明けの風はらませて」をみていますが、あまり印象はなく(ゴメン…)、でもこの澄人、なかなかいい味出していました。

ということで、とにかく構成にびっくりした映画でした。